善人の仮面をつけた母の虐待
今日は朝から不快。目が覚めたと同時に、右目がジンジンと痛い。
腫れていないので、おそらく疲れ目だと思う。目を酷使すると、たまにこの症状になる。ここのところ新しい小説を書き始めたり、それに関する調べ物をしていたので、無意識に目を使っていたんだろう。
目が思うように使えないときって、かえって見ることを意識する。何気なく歩いている街の風景でも、いつもより注意深く、かつ自由に世界を見ているような気がした。不自由であることで、獲得する自由があるのかもしれない。
目を酷使した理由のひとつが、この本を必死で読んだこと。新しい小説に使うテーマの勉強なんだけれど、その内容の過酷さに衝撃を受けた。
『Sickend〜母に病気にされ続けたジュリー』ジュリー・グレゴリー著という本。
新しい小説はホラーSFなんだけれど、中心となるテーマに『代理ミュンヒハウゼン症候群』というものを使うつもり。初めて聞く人が多いだろう。
これはとても複雑な心の病気で、幼い子供が被害にあうので表沙汰になりにくい。なぜなら加害者が母親であることが多いから。
この病気の人は、いわゆる『かまってちゃん』のような感じ。自分に関心を持ってもらいたいという、ナルシストのような人物が多い。
NHKの朝ドラの『まんぷく』で、松坂慶子さん演じる母親が、長女の結婚を妨害したくて仮病の腹痛を起こすシーンがある。「わたしのことを見て」、「わたしの気持ちをわかって」ということを訴えるための仮病だった。
ところがこの病気は、仮病を自分でやらず、子供に代理させる。だから『代理ミュンヒハウゼン症候群』という病名になる。まったく健康に問題のない子供を、病気だと言って医者に診せる。
症状がないのに捏造したり、そのことを子供に医者の前で言わせたりする。子供思いの母親を演じることで、賞賛を求めたり、自分に注目してもらおうとする。ひどい場合は、本当に子供を病気にさせて死なせてしまうことがある。
アメリカではこの病気の母親が自分の子供や里子を殺した事件があった。ある看護師の女性がこの病気によって、小児科に通う子供を何十人も殺したという事件もある。とにかく善人を装っているので、医者も気がつかない。
この本はジュリーの体験が彼女自身によって書かれている。母親は祖母に同じ虐待を受けていて、娘のジュリーにも同じことをやってしまった。その体験は壮絶で、自殺せずにジュリーが今も生きているのが不思議なほど。
母親によって、ジュリーは頭が悪く、病弱で成人するまで生きられないと思わされてきた。まったく異常がないのに、心臓カテーテルの手術まで受けさせられている。成人して大学に通い、心理学の授業で初めてこの病気の存在を知った。
そのころは母は離婚して、他の男性と結婚していた。そこに里子がいる。ジュリーが心配になって調べると、成人した自分の代わりにその子供が同じ虐待を受けていた。おそらく母親は、自分をコントロールできないんだろう。
医者というのは、子供の病気に関して親の意見を尊重する。だからこの虐待は知られずに終わることが多い。ジュリーは自分の体験を本にして、この病気を世間に人に認知してもらう活動を今も続けている。
おそらく日本でも同じことがあるはず。だけどもしかしたら何も知らずに苦しんでいる人や、病死扱いで命を奪われた子供がいるかもしれない。この本を読んで疲れ目になったことなんて、虐待を受けている子供に比べたらどうでもいいことだと思ってしまう。
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