うっかりは、人を殺す
人間はミスをする生き物。うっかりすることは、誰にだってある。
だけどそのうっかりが、取り返しのつかないことになることもある。忘れ物をしたり、電車に乗り遅れるくらいなら笑い話ですむかもしれない。
でも自動車を運転している人のうっかりで、人が死ぬこともある。同じくタクシー、バス、電車、そして飛行機の操縦等に関わっている人は、うっかりすることで、生涯を通じた重荷を背負うことになりかねない。
医者や看護師、あるいは薬剤師という仕事をしている人もそうだろう。昨日、神戸でガス管の工事をしていた人が、引火して重体になった事故もあった。
ボクが二十代のとき、電気工事の職人さんから恐ろしい話を聞いたことがある。京都の西本願寺で仕事をしているとき、本堂の上からドライバーを『うっかり』落としたらしい。
そのまま一直線で本堂の畳の上に刺さり、ユラユラと揺れていたとのこと。もし人がいたら、確実に命を落としている。うっかりで済むことじゃない。
人間の言葉でも同じだと思う。悪気がなくても、うっかり口にした言葉で誰かを傷つけ、自殺に追い込んでしまうことがあるかもしれない。もちろんそんなことばかり考えていたら、神経衰弱になってしまうだろう。だけど『うっかり』が日常化して、『油断』にまで進化させないほうがいい。
まさにそんな『うっかり』が、大惨事を引き起こしたという映画を観た。
『アンストッパブル』という2010年のアメリカ映画。二度目だけれど、やはり時間を忘れて観てしまうほど面白い映画だった。
ストーリーはいたってシンプル。ある貨物列車の運転士が、うっかりして列車を無人で走らせてしまう。困ったことにその列車の排気ブレーキも、これまたうっかりで外されていた。必然的に列車は暴走する。
その列車がもし脱線すれば、貨物にある危険な毒物の爆発によって、スタントンという市街地が壊滅してしまう。たまたま同じ路線にいた運転士と車掌が、命をかけてその列車を止めるという物語。その二人を、写真のデンゼル・ワシントンとクリス・パインが演じている。
今回は二度目なので、ちょっとちがった角度からこの映画を観た。主人公に感情移入するのではなく、最初に『うっかり』をやらかした運転士の気持ちで映画を鑑賞してみた。
登場シーンは限られているけれど、映画の前半では必死になって暴走列車を止めようとしている。もしかしたら何千人という人間を殺してしまうしれない。うっかりが油断になって、適当な仕事をしていたせいなのは、この運転士自身が身にしみてわかっているだろう。
だけど後悔しても遅い。列車はとんでもない高速でスタントンに向かっている。そのときの彼の気持ちを考えたら、苦しくて涙が出そうになった。想定されている最悪の結果になったら、おそらく彼は自殺してしまうだろう。
ラストで無事に列車が止まったとき、ボクはその運転士の表情に注目していた。地味だけれど、とてもいい演技だった。生きた心地のしない状況から、ただただ、ホッとしたという表情に変化した。いやいや、マジでそれしかないだろう。観ているこちらも、思わず胸をなでおろした。
うっかりは、人を殺す。このことは、心のどこかに置いておくほうがいいだろうね。
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