セカンドチャンスを戦う理由
誰のどんな行動にも、必ず動機がある。ミュージシャンとして成功した人の動機が、異性にモテたいというのはよく耳にする。
動機なんて不純でもなんでもいいと思う。やりたいことが犯罪じゃなければね。
自分の決意を具体的な行動に結びつけるため、動機は強ければ強いほうがいいだろう。なぜなら人間はすぐに怠け心が出たり、一度の失敗でくじけたり、自分には無理だとあきらめてしまうから。そのために強い牽引力を有する動機は必然になってくる。
でもどれほど強い動機でさえ吹っ飛んでしまうようなことが、人生で起きることは否定できない。肉体的にも精神的にもボロボロになってしまい、ただ生きるのに精一杯ということもあるだろう。
そんな状態でも前に進める動機があるとしたら、それはもはや戦地に向かう戦士のような、命をかけたものなのかもしれない。
そこまで追い詰められた人間が持つ動機、言い換えればその人物が『戦う理由』を知れば、ボクたちに新しい洞察をもたらしてくれるような気がする。
『戦う理由』を明確に持つ男の映画を観た。
『シンデレラマン』という2005年のアメリカ映画。1930年代の世界恐慌の時代、どん底から復活したブラドッグという実在のボクサーを、ラッセル・クロウが演じている。感動の涙なしで観られない、素晴らしい作品だった。
ブラドッグはKOされたことのないボクサーとして活躍していた。だけどチャンピオン戦で判定負けをしてから、勢いを失くしてしまう。負けが続き、怪我も重なり、ボクサーとして落ちぶれてしまう。
そのうえ世界恐慌に見舞われたことで、妻と3人の幼い子供たちとの暮らしはどん底になる。電気は止められ、子供たちにミルクさへ買ってやれない。さらに無様な敗戦が原因で、ボクサーのライセンスまで剥奪されてしまう。
港湾の日雇い労働者として働きながら、生活保護に頼ったり、以前の知り合いに物乞いのごとく助けを求めたりする。それは貧困によって子供たちを手放したくなかったから。
このブラドッグという人物には、好感しか持てない。妻を愛し、子供を愛し、友人を愛している。そのために必死で生きようとしている。こんな素敵でカッコいいラッセル・クロウを見たのは初めてかもしれない。
ある日、彼にセカンドチャンスが訪れる。チャンピオン戦を控えたボクサーが、対戦相手が辞退したことで困っていた。それで1回限りの試合で、負けてもいいからという条件でリングに立つ。ところが圧倒的に強い相手に勝ってしまう。
そこから彼の快進撃が始まる。過去にブラドッグと対戦して勝った相手でさえ、「彼は別人になった」と怯える。そしてそのままヘビー級の世界チャンピオンになるという、実話に基づいた物語だった。
世界戦を直前にしたインタビューで、なぜ彼がここまで復活できたのか記者が質問する。「戦う理由があるから」と彼は答える。
その理由とは、と記者が尋ねる。ブラドッグは笑顔で答える。「ミルクを買うため」
それは死にたくなるような貧困からはい上がった、彼の本音だと思う。そしてその強い動機が、彼を世界チャンピオンにまで押し上げたのだろう。
諦めずに戦うことの苦悩とその意義を、感動を通じて教えてもらえた作品だった。
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