世界を救う嘘、破滅させる真実
CIAの工作員のようなスパイは、サイコパスのほうがいい。なぜなら他人の感情に左右されないので、冷徹な決断ができる。任務の遂行が何よりも優先されることであって、そのために使っている駒のことを二の次にできるのがサイコパスだろう。その駒が生きている人間であってもね。
でもサイコパスといっても、人間なので個人差がある。少しは情に左右される人もいれば、殺人鬼のように平然と人の命を奪うことができる人もいる。そんなサイコパスたちの人間模様が描かれた映画がある。
『ワールド・オブ・ライズ』(原題:Body of Lies)という2008年のアメリカ映画。中東にいるテロリストの動向を探り、テロを防ごうとするCIA工作員の物語。予備知識なしで観たけれど、かなり面白かった。
主演はレオナルド・ディカプリオで、中東の工作員であるフェリスを演じている。彼の上司はホフマンという名で、ラッセル・クロウが演じている。
この二人が対照的で面白い。フェリスは常に現地で死ぬような思いをしている。工作員なので嘘をついて人を騙すのは当たり前。場合によっては情報提供者の口を封じるために射殺することも厭わない。それでもできる限り身内の人間を保護しようとする。
ところがアメリカ本土にいるホフマンは、もっと徹底したサイコパス。幼い自分の子供の面倒を見ながら、平気で情報提供者を殺せと命じる。作戦のためなら優秀な部下であるフェリスの命を捨ててもいいと思える人間。ところが風貌はどこか頼りないオヤジ風なので、そのギャップが面白すぎる。これはラッセル・クロウの演技なしには表現できない役どころだと思った。
そしてもう一人サイコパスの工作員がいる。ヨルダン情報局責任者のハニ。こいつがまたカッコいい。目力があってハンサム。部下や協力者の嘘を嫌う人間のくせに、情報局の人間なので当然ながら大ウソをつく。
この3人の嘘がからみあって、最高に面白い展開になる。彼らが追いかけているのはヨーロッパで次々とテロを起こしている、アル・サリームというテロリストの指導者。この男も完璧なサイコパス。それも凶悪犯罪のほうへ傾いたサイコパスだろう。だけど他の3人にないものを、このテロリストは持っている。
それは嘘をつかない、ということ。
この4人のうちで嘘をつかないのはアル・サリームだけ。彼はテロがアメリカと戦うための聖戦だと信じているから、嘘をつく必要がない。完全に自分の真実のなかで生きている。ただし彼の真実は、世界を破滅させる。
一方他の3人は、世界を救うために嘘をつきまくる。そして最後に勝利した嘘つきは、ヨルダンのハニだった。正体がバレて拷問の末に処刑されそうになったフェリスを救ったのは、ハニの嘘によってテロリスト組織に忍び込んでいたスパイ。それによってアル・サリームも逮捕される。
とにかくレオナルド・ディカプリオがカッコいいんだよね。彼の鬼気迫った演技を観ているだけでホレボレしてしまう。対照的なラッセル・クロウのとぼけた演技によって、ディカプリオの演技がより輝いているのは言うまでもない。なかなかいい映画だった。
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