死の予感にドキドキした
死は必然であるべき。必然性のない死には怒りを覚える。
といってもこれは現実のことを言っているのではなく、物語についてボクが考えること。小説や映画で死を扱う場合、受け手が納得できる死であってほしい。そして自分が書く場合も、そのことを強く意識している。
そんなボクだから、映画を観たり小説を読んでいるとき、死の『サイン』に敏感になる。作者はそれとなく『死』を匂わせるものだから、どこかに『サイン』が隠されていることが多い。
ホラー映画を観ていると、「あっ、このひと絶対に死ぬよね」というのがわかることがある。どうしてあんな場所に一人で行くんだろう、なんていうのが一番ヤバい。ちょっとしたセリフや音楽でも、登場人物の死を感じることもある。
この死の予感に最後まで悩まされてドキドキした映画がある。
『ザ・ウォーク』という2015年のアメリカ映画。1974年にフィリップ・プティという男性が、ニューヨークのワールドトレードセンタービル、いわゆるツインタワーの間にワイヤーを張って綱渡りを決行した。
そのフィリップが成し得た前代未聞の出来事を、実話に基づいて作られた作品。なんとなく観たけれど、めちゃめちゃ面白くて最後まで夢中になってしまった。
まず気に入ったのはフィリップを演じたジョセフ・ゴードン=レヴィットの素晴らしい演技。実際のフィリップはフランス人なので、彼は特訓してフランスなまりの英語を身につけたそう。だからフランス語も素敵だった。
ボクが彼を最初に意識したのは『インセプション』という映画。最近では『スノーデン』という作品でエドワード・スノーデンを演じている。テンポのいい彼の演技と親しみの持てる笑顔にやられてしまった。
そしてCGを駆使した綱渡りシーンの連続に、高所恐怖症でないボクでもお尻がゾワゾワする。この写真を見てもらえば雰囲気がわかると思う。そして何よりもドキドキしたのは、映画の構成による死の予感。
理由はわからないけれど、映画のスタートからフィリップは自由の女神のトップに立って回想している。遠景に見えるツインタワーを背中に置いて、綱渡りを決意した経緯を語り始める。その様子がどうしても幽霊、あるいは天使を連想させた。
そして綱渡りを学び始めたころ、到着直前に気を抜いて落下しかけるというシーンがある。これは伏線であって、実際にツインタワーの綱渡りにも同じ状況になっている。この2点だけで、フィリップは失敗して死ぬでのはと予感してしまった。ボクは事実を知らないからね。
でもそれは監督であるロバート・ゼメキスの演出だったのかも。驚いたことにフィリップは綱渡りに成功しただけでなく、二つのビルから警察に追われることで、何度も往復している。常人にはできないことだろう。
フィリップはいまも健在で、主演のジョセフに綱渡りの特訓を指導したそう。夢を叶えるために狂ったよう突っ走る主人公と、彼を支える周囲の人たちの友情を感じることのできる素敵なドラマだった。
ただラストシーンが切ない。フィリップは警察に捕まったけれど、セントラルパークで綱渡りをすることで許される。そのうえ、ツインタワーの屋上の展望台に出入りできる『無期限』のパスをもらった。
ラストでフィリップが「このパスの期限は『永遠』と印字されている」と笑顔でつぶやく、そしてツインタワーがアップになる。これが切なくてたまらない。なぜなら永遠じゃなかったから。
彼が屋上に記したサインもろとも、大勢の人の命を道連れにタワーは崩壊してしまった。あの911のテロによって。
ボクが感じた死の予感は、ワールドトレードセンターのことだったのかもしれない……。
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