恐怖の連鎖は仕組まれていた
ホラーやオカルトの物語は数限りなく存在するけれど、これほどおぞましく、そして人間の心を激しくゆさぶる物語が他にあるだろうか?
ボクはただ恐ろしいだけでなく、悲しくて胸が張り裂けそうだった。愛する人の死を受け入れることができず、狂気の世界へ踏み込んでいく主人公に同情を禁じえない。おぞましいけれど、ボクには彼を非難することができなかった。
『ペット・セマタリー』下巻 スティーブン・キング著という小説。ついに禁断の下巻を読了した。上巻の感想については『死を帳消しにする墓場』という記事に書いているので参照を。
シカゴから越してきた家の敷地にあるペット霊園。その奥には先住民が聖なる地として使っていた場所がある。そこに動物の死体を埋めると、その動物が生き返る。上巻では主人公のルイスが、妻と二人の子供が留守中に交通事故で命を落とした猫をその土地に埋めて復活させている。
だけど生き返って猫は腐臭がして、以前の猫とちがう。それでもかろうじて家族には気づかれることなく普通の日々が過ぎた。ところが下巻のスタートで事件が起きる。まだ歩き始めて間もないゲージという長男が、猫と同じく交通事故で命を落とす。
ボクの嫌な予感は的中した。当然ながら父のルイスは葛藤する。このあたりの心理描写は本当に見事で、さすがスティーブン・キングだと脱帽した。ルイスの気持ちを思うと、彼の行動を否定できない。だってもう一歩で道路に走るゲージをつかまえることができた。指先まで触れていたのに……。
当然ながらルイスに秘密の墓場を教えたジャドという老人は心配する。ルイスが息子をよみがえらせようとするのではないか、と。そして長女のエリーという少女も夢で父のやろうとしていることを直感的に知ってしまう。それで母であるレーチェルに訴える。「生き返ったゲージがナイフを持っている」と。
なんとかしてルイスの行動を止めようと周囲は動くが、ことごとく邪魔される。その墓場には恐るべき悪魔のような存在がいるから。生き返った動物に宿るのは、その悪魔だった。
猫の事故も、そして長男のゲージもその悪魔が仕組んだものだった。そしてルイスを止めようとするジャドを眠らせ、夫の元に駆けつけようとする妻のレーチェルの車を故障させる。そしてついにルイスは超えてはいけない一線へと踏み込んでしまう。
ここからはマジでおぞましい。よみがえった幼児のゲージは、ジャドだけでなく、母親のレーチェルまで殺してしまう。まるで『オーメン』という映画のよう。最終的に父のルイスがゲージの息の根を止めるが、ルイスは魔物に取り憑かれていた。
なんと今度はゲージに刺し殺された妻のレーチェルをその墓場に埋めてしまう。そしてラストシーンは、よみがえった妻が夫のルイスに声をかける場面で終わる。あぁ、なんというラストなんだろう。恐ろし過ぎて言葉にならなかった。
ボクがいままで読んだスティーブン・キングの作品で、最高に気味が悪く、おぞましく、そして悲しい物語だと思う。なぜなら行動のすべてに『愛』が関与しているから、愛するがゆえに生きて欲しいと願う。よみがえって欲しいと渇望する。その気持ちが痛いほど伝わってくる。
映画になっているけれど、ボクには無理だなぁ。この物語を映像で見たら、きっとトラウマになってしまうような気がする。といいつつ、どんな風に映像化されているのは気になるけれどね。
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