自殺した父との共同作業
ボクがあこがれているアーティストの完成形がある。それは無記名の作品でも作者が誰だかわかること。
かなり古い話になる。中学生時代のボクはチューリップというバンドが大好きで、ファンクラブにも入っていた。京都で開催されるライブはすべてかけつけた。チューリップの曲が好きだということは、言いかえればバンドのリーダーである財津和夫さんの作る曲が好きだということになる。ほとんどの曲を彼が作曲しているんだからね。
そんなボクが高校生のころ、松田聖子さんが歌謡界に登場した。『聖子カット』という髪型が女性に流行したほどのブームだった。彼女の曲で『夏の扉』というヒット曲がある。初めて聴いたとき、ボクはそのメロディーに心が奪われた。
こんな素敵なメロディーを書ける人がいるんだ。ついにチューリップ以外に日本で好きなミュージシャンを見つけた、と喜びいさんでこの曲のクレジットを確認した。
ところがなんと作曲者は財津和夫さんだった……。
そのときボクは思った。これこそプロだと。揶揄する人は同じタイプの曲しか書けないというかもしれない。だけど自分のカラーを明確に持っていて、それを作品として表現できるのはすごいことだと思う。口で言うほど簡単なことじゃない。
これは文章でも同じで、著者名を見なくても誰の作品なのかがわかる作家は大勢いる。ボクのなかでその代表的な作家は、伊坂幸太郎さん。久しぶりに彼の新作を読んだ。
『AX アックス』伊坂幸太郎 著という小説。
もし著者名を隠されてこの小説を読んだとしたら、ボクは数分で書いたのが伊坂さんだと断言できる。伊坂さんは文体が独特で、特定のパターンがある。そしてそのパターンに、必ずと言っていいほど笑わせられる。この小説でも何度吹き出したことか!
この作品は伊坂さんが得意とする殺し屋シリーズ。有名な作品として『グラスホッパー』と続編の『マリアビートル』という小説がある。この作品は続編じゃないけれど、これらの作品の流れに続く小説になっている。
蜜柑、檸檬というような過去作品の殺し屋の名前が出ただけで、伊坂ファンらならニンマリしてしまう。ボクもそのひとりだった。このシリーズは殺し屋が主人公だけどシリアスなものじゃない。どちらかといえばコメディに近い。
今回の殺し屋は三宅という名前で、妻とひとり息子がいる。殺し屋としてはすご腕で、右に出る者がいない。文房具店の営業職をやりながら、殺し屋稼業を続けていた。
面白いのは彼が極端な恐妻家だということ。どのようにすれば妻に怒られることがないか、詳細なマニュアルまで作っている。新しい作品なのでこれから読む人はこの先を読まないほうがいいかも。あっ、でもブログのタイトルに書いてしまったわ〜〜www
とにかく三宅は足を洗いたかった。それはひとり息子のため。そして引退を決意するが、仲介者によって窮地におちいって自殺することになってしまう。だけど生前の三宅の備えによって、息子との共同作業で復讐を果たすことができる。
成人した息子は、死んだ父親があれほど母を怖がっていつも神経をすり減らしていたのに、なぜ結婚したのか不思議だった。その真相がラストの章で書かれている。ずっと笑っていたのに、最後の最後で泣かされてしまった。さすが伊坂さんだよなぁ。
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