SOLA TODAY Vol.969
無痛覚という症状を聞いたことがあるだろうか? 正式には先天性無痛無汗症というもので、遺伝子による疾患で生まれつき痛みを感じないというもの。
ボクが初めて知ったのは『ドラゴンタトゥーの女』というベストセラー小説。主人公のリスベットの異母兄が無痛覚なので、どれだけ彼女が攻撃しても平気な顔をしていた。
実際にまったく痛みを感じないそうで、自分の手が燃えているのに肉が焼ける匂いで初めて気がつくような状態。注意しないと致命傷を負っていても気がつかないということになる。
そんな無痛覚を、医療に利用しようという研究が進んでいる。
遺伝子編集が、人間に「痛みからの解放」をもたらす日が見えてきた
無痛覚の原因は遺伝子によるもの。だから遺伝子編集をすることで、人間を痛みから解放しようという研究が具体化しつつあるという記事。ガン等の疾病による強い痛みを緩和するため、現状ではモルヒネ等の薬品を使用するしかない。
だけど麻薬の一種なので依存性が強い。痛みの緩和が優先されるとしても、それに伴う副作用は無視できない。だけどこの無痛覚の遺伝子モデルを応用することで、副作用のない痛みからの解放が期待できる。
ただ本格的な遺伝子編集となると、そう簡単にはいかない。少し前に中国で話題になった遺伝子操作ベビー誕生の公表でさえ、世界的な非難が続出した。特定の遺伝子を持つ人間を意図的に作ることで、優生思想を推し進めることになってしまう。倫理的にかなり問題があるのは事実だろう。
この記事でも紹介されているが、無痛覚の遺伝子を持つ子供を大量に作ることで、痛みを感じない兵士を養成することが可能になる。腕がちぎれようと、足が吹き飛ぼうと、平気な顔で向かってくる兵士ほど恐ろしいものはない。まさにゾンビの世界。
遺伝子操作による想定外の副作用も考えられる。だから理論的には可能でも、具体化するにはかなり大きな壁を乗り越える必要があるだろう。それでもこの無痛覚の仕組みを利用した薬の開発が進んでいて、近いうちに臨床実験ができる段階とのこと。
恒久的に遺伝子を変化させるのではなく、痛みが存在するときにだけ使えるようなものらしい。モルヒネに比べたらはるかに安全が高く依存性は皆無。現段階では理想的な薬なので、うまく開発が進めばいいなと思う。
この無痛覚が素晴らしいのは、肉体の痛みだけなく心の痛みも取り除いてくれること。この症状を先天的に持つ人は、不安や憂鬱、恐怖といった感情を、記憶にある限り一度も抱いたことがないという。
もしこの研究が具現化すれば、人類は肉体の痛みだけでなく、心の苦痛からも解放されるかもしれない。だとすると素晴らしいことだよね。
だけど同時に不安も覚える。人間は痛みがあるからこそ安全に注意するし、他人を思いやることもできる。心の痛みだって、すべてが悪いわけではない。結果として人間を強く、そして優しくすることもある。
もしかしたら痛みは、人間に与えられた『恩寵』かもしれない。そう思うと、無痛覚というものを無条件に受け入れることに抵抗を覚えるなぁ。
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