人生のスピンオフを楽しもう
小説を書いていてもっとも大切なのは、誰の視点でドラマが動いているかを意識すること。一人称なのに突然他人の視点が入り込んだらマズいし、三人称でも唐突に語り手が変わると読者は混乱する。
つまり視点によって、同じ事実でも解釈が変わってくるということ。交通事故や殺人事件でも、加害者と被害者ではまったく受け取る感覚がちがってくる。起きた事実は変わらないのに、まったくちがうことが人間の内面で起きている。
今日ある映画を観ていて、そのことを痛感した。歴史的事実を誰の視点で見るかによって、受け取る印象が180度変わってくる。
『関ヶ原』という2017年の日本映画。司馬遼太郎さんの原作小説を映画化した作品として話題になったのは知っていた。先日民放初の放送があったので、録画して観ることができた。
タイトルだけですべてがわかる作品。あまり日本史に関心のない人でも、関ヶ原の合戦については少しくらい知っているだろう。
この映画の主人公は石田三成で、サブ的な主役になるのが家来の島左近という武将。つまり西軍の視点で進行する映画なので、必然的に東軍である徳川家康が悪役のような立場になる。
石田三成を演じた岡田准一さんは完璧。こんな素晴らしい三成を見たら、もう応援するしかない。孤立無援の状況になったとき、役所広司さんが演じる家康が憎らしくてたまらなかった。それだけ二人の演技がすごいということ。
ボクのイチオシは、この写真の島左近を演じた平岳大さん。いやぁ〜実にかっこいい武将役で、この映画を通じてボクがもっとも惚れ込んだキャラだった。
とにかく最高の映画だった。まずテンポ感が実に心地いい。会話がトントンと進み、役者同士のセリフのかぶり方にリアリティを感じた。さらに武将が放つ雰囲気がリアルで、戦国時代という命を削り合っている人間の気迫が、どの俳優さんからもにじみ出ていた。素晴らしい演出だと思う。
有村架純さんが演じた初芽というキャラもよかった。強いていえば顔が現代的すぎて、少し興ざめするきらいはあったけれどね。女性陣で言えば北の政所のねねを演じたキムラ緑子さんが最高だった。同じく秀吉を演じた遠藤憲一さんの鬼気迫る演技も、強く印象に残っている。
この映画の欠点をあげるとすれば、セリフの速さだろう。映画が始まってすぐにヤバいと思い、ヘッドフォンに切り替えた。そうして音量を上げるとセリフが完璧に聞き取れたので、問題なく映画の世界に没入することができた。
もうひとつ欠点をあげるとしたら、歴史にくわしくない人には、ちょっとツライかなと感じた。関ヶ原の合戦に関する武将の相関関係をわかっていない人が、あの早いセリフについていけなくてギブアップしてしまう可能性がある。そうなるとまったくこの映画の魅力を感じないだろうな、という不安は感じた。
だからヘッドフォンを使い、かつ戦国オタクのボクにとっては最高の映画だった。そのうえあまり好きでなかった石田三成の視点で物語を体験できたので、関ヶ原の合戦スピンオフという気分を味わうことができた。やっぱり視点って大切だよね。
自分の人生も同じだと思う。想像力を働かせてちがう視点で自分の生きかたを見つめたら、まったく新しい世界を発見するかもしれない。そうなれば毎日の生活を、数倍楽しく感じられるかも。どうせならひとつだけの視点じゃなく、人生のスピンオフを楽しむべきだよね！
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
