不登校の中学生に起きた奇跡
出会いの素晴らしさとそれに伴う人生の好転は、人間関係だけじゃない。小説、映画、音楽、絵画等、誰かが創作したコンテンツとの出会いによって、より有意義な人生に変わることだってある。
ボクは久しぶりに、そんな衝撃的な出会いをしてしまった。それは小説。
『かがみの狐城』辻村深月 著という小説。辻村さんの名前は以前から知っていたけれど、機会がなくて著者の作品は未読だった。だけどこの作品が本屋大賞を受賞したことで、ようやくこの作家の世界に触れることができた。
読み始めてすぐにピンときた。これはボクが書きたいと思っているタイプの小説。ファンタジーなんだけど、そこで終わらない。地に足がついていて、現実世界の問題から目を背けていない。だから心が激しく揺さぶられる。
単行本で550ページほどある大作だけれど、その長さを感じさせないほど夢中になってしまった。涙なしでは読めない感動作だった。
主人公はこころという中学1年生の少女。彼女は中学に入学していじめにあい、学校へ行けなくなる。いわゆる不登校児だった。
ある日自宅でぼんやりしていると、家の姿見が光った。そしてオオカミの面をつけた女性が声をかけてくる。ラッキーにもあなたは選ばられた人間だ、とオオカミ面の女性は言う。この鏡の向こうの世界で鍵を発見したら、どんな願いでもひとつだけ叶えられるとのこと。
その鏡の向こうの世界には、自分以外に6人の中学生がいた。アキ、フウカという女性。そしてマサムネ、スバル、ウレシノ、リオンという男性。全員が中学校1年生から3年生という集団だった。
ルールはシンプル。今年の4月から来年の3月30日までのあいだに、鍵を見つけること。そうすれば一人だけ願いを叶えることができる。ただし、誰かが願いを叶えた時点でこの鏡の世界は消え、全員の記憶も失われてしまう。
そして時間は午前9時から午後5時まで。それ以外の時間に鏡の世界にいると、オオカミに食べられてしまう。そしてその日に鏡の世界にいた人間も連帯責任で食べられてしまう。まさにファンタジーの世界だよね。
この7人は、すべて中学校に行けない、あるいは行っていない不登校児だった。それぞれに複雑な事情を抱えている。共通しているのが孤独。自分は誰にも受け入れられないという思いを抱えていた。
ところがある日のこと、ちょっとした事件があって全員が同じ中学にいることがわかる。だから彼らは鏡の外の世界で会おうとする。当然だよね。孤独を分かち合った仲間だったから。だけど会えない。どうしても会うことができなかった。
ボクはこの段階で完璧にストーリー展開を読みきった。作家視点で読んでいるので、つい伏線の行き先を想像してしまうから。この7人が会えない理由も推理どおりだった。そしてそれ以外にある伏線のほとんども、ボクが推測したとおりだった。
それでも泣いたよ。マジで泣いた。ボクは不登校の経験はないけれど、彼ら全員の心に触れたような気がしたから。その苦しさを感じたように思えたから。だから最後の奇跡が起きたとき、本気で泣いてしまった。
これはぜひとも読んでほしい作品なので、絶対にネタバレはしない。主人公のラストでの行動とその結果にも感動するけれど、オオカミ面少女の正体がわかったときのほうが号泣した。想像どおりだったけれど泣いた。3月30日の理由がわかる瞬間だった。
ファンタジーだから、実際にはありえないこと。だけどそんなファンタジー感を差し引いても、心に訴えかけてくるものがある作品だった。すごい作家だよね。彼女の作品をもっと読んでみようと思う。おそらくハマってしまうだろうなぁ。
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