仕事への誇りと徹する姿に感動
天職に出会える人は数少ないかもしれない。だけど関わることになった仕事を天職にすることは、誰にでも可能なことだと思う。
そのために必要なのは、まずその仕事を好きになること。そして自らの職務に対して誇りを持ち、人生をかけてそれに徹することだろう。
果たしてボクは、そこまでの覚悟ができているだろうか? そんなことを自問したくなる映画を観た。
二人の登場人物の仕事に対する姿勢にちがいはあれ、どちらも限りなく美しい。そして苦しく切ない。そんな二人の姿に感動の涙を流さずにはいられなかった。
『日の名残り』(原題:The Remains of the Day)という1993年のイギリス映画。もしかしたらボクにとって、今年観たなかで最高の映画かもしれない。こんな素敵な映画があるなんて知らずに損をしていた気分。原作はノーベル文学賞を受賞されたカズオ・イシグロさん。
アンソニー・ホプキンス演じるスティーヴンスはダーリントン卿というイギリス貴族の有能な執事。物語のメイン舞台は1936年で、まもなく第二次世界大戦が始まろうとしているころ。
ダーリントン卿はイギリスの政界の要職にあり、彼のお城のような自宅は世界の要人が集まって会合する場所となっていた。その家の執事だから、スティーヴンスがどれほど優秀な人物であるかは語るまでもない。
ある日、空きが出たメイド頭として経験豊かなケントンという女性が採用される。そのケントンをボクの大好きな女優さんであるエマ・トンプソンが演じている。
この物語は20年後の世界から始まる。ダーリントン卿は亡くなり、このお城のような貴族の館はアメリカ人の所有物になる。ところがこの館を仕切っているのは、やはりスティーヴンスだった。第二次世界大戦の開戦と同時に結婚して退職したケントンから手紙が届き、もう一度働きたいとのこと。そこで彼女に会いに行くシーンに重なって、1936年の物語が展開されていく。
最初はぶつかっていた二人だけれど、いつか互いに信頼するようになる。おそらく相思相愛だったんだと思う。だけどスティーヴンスはメイド頭と恋愛関係になることを恐れている。何よりも仕事が優先で、執事としての品格を保つことに徹していた。
さらに困ったことにダーリントン卿は親ドイツ派の貴族で、その優しさにつけ込まれてナチスに利用されてしまう。戦争の空気が高まるなか、自分の主人が窮地に立つことでスティーブンスもケントンも苦しむことになる。
とまぁハラハラドキドキの展開はないけれど、この映画の素晴らしさは主人公である二人の人物像と、それを演じ切った俳優さんの完璧な演技。エマ・トンプソンは語る必要のないほどいつもながらのパーフェクトな演技だった。本当に最高の女優さんだと思う。
そして驚いたのがアンソニー・ホプキンスの執事役。もう素晴らしすぎて言葉にならない。『羊たちの沈黙』のレクター博士のサイコパス姿がぶっ飛んでしまった。いくつも彼の映画を観ているけれど、これまでで最高のアンソニー・ホプキンスが見られる作品だと思う。
20年後に再会したときのシーンは、思い出すだけで涙が出てくる。なんて切ないんだろう。だけど執事は感情を見せてはいけない。愛する人と離れようと、父が死のうと、冷静なまま仕事に徹している。だけど背中が泣いているんだよね。それが彼の演技のすべてに出ている。
こうなると原作を読みたくなってきた。さっそく図書館でチェック。少し調べると、映画とは少しちがうらしい。そのあたりも含めて、原作の世界にも触れてみようと思う。
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