最恐なのは記憶が消える恐怖
人間にとって最大の恐怖は、自分の記憶が消えてしまうことじゃないだろうか?
最近でこそないけれど、10代や20代の初めころ、お酒を飲み過ぎた翌朝に愕然としたことが何度かある。飲み始めてある時点からの記憶が飛んでいて、酒の席で何を言ったか、どうして家に帰ったかまったく思い出せない。この恐怖たるや、経験したことある人ならわかるだろうwww
誰かに失礼なことを言っているかもしれないし、恥ずかしいことをやらかしているかもしれない。もし犯罪を犯していても記憶がないからわからない。だからあわてて一緒に飲んだ人に恐る恐る連絡を取り、消えた記憶の補填をするときほど恐ろしいことはない。
人間は記憶によって正気を保っている。もし朝になって家族が見知らぬ他人だったら、パニックになってしまうだろう。そこは自分の住んでいる世界ではなく、パラレルワールドだと思ってしまうにちがいない。
そんな人間の心境が見事に描かれた小説を読んだ。
『パラレルワールド・ラブストーリー』東野圭吾 著という小説。
タイトルを見る限り、SF的なパラレルワールドを扱った恋愛物語のように思えるよね。あるいは『君の名は。』のようなアニメ映画をイメージする人もいるだろう。だけどこの小説はそんな甘いラブストーリーじゃない。むしろ恐ろしい。
このタイトルに使用されているパラレルワールドは、タイムトラベルのパラドックスを説明するための意味じゃない。もっとリアルな意味で、もうひとつの世界について書かれている。
小説自体は1995年に執筆されている。だけどこの小説の映画化作品が今年の5月に公開されたばかり。だから楽しみにしている人のためにネタバレしないほうがいいかもしれないね。そのつもりで書くけれど、もしネタバレになったらご容赦を。
この物語は三角関係が根底にある。中学校時代からの親友である敦賀崇史と三輪智彦。二人は研究者という同じ道に進み、同じ組織で人間の記憶に関する研究をしていた。その二人のあいだに登場するのが津野麻由子という美人。映画では吉岡里帆さんが演じている。
簡単に言えば、主人公の崇史は友情を取るか恋人を取るかという究極の選択を迫られる。これに関しては古くからあるテーマ。だけどこの小説はそう簡単じゃない。主人公である崇史の一人称と、三人称の物語が同時進行する。
一方の崇史は麻由子と同棲している。もう一方の崇史は智彦の恋人である麻由子に恋をして、親友に対して嫉妬の炎を燃やしている。物語が進むに従って、その二つの物語が混ざり合い、やがて崇史は驚くことに気がつく。
それは『記憶の上書き』というもの。人間の記憶は都合のいいように書き換えられる。それを意図的に書き換えるという研究を、三輪智彦は完成させていた。そしてその研究にからみ、行方不明になる人物まで出ている。物語全体に、恐るべき陰謀の気配が満ちてくることになる。
ネタバレはここまでにしておこう。とにかく読み出したら、気になって手が止められなくなるのは確実だよ。後半に進むほど何が真実がわからなくなってきて、そのうちボクが経験している現実でさえ真実なのか疑いたくなってくる。
さすが東野圭吾さんだなぁ。本当にすごい小説だった。その東野さんが驚いたほど、この作品の映画が素晴らしいそう。かなり複雑なストーリーなので、映像化は難しかったと思う。著者にそこまで言わせる映画なら、是非とも観なければね。
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