死者だから伝えられること
年に数度だけれど、小説や映画に触れて衝撃を受けることがある。そしてその衝撃は必然であって、過去の作品でも『今』接することが大切なんだと思う。昨日読み終えた小説によって、久しぶりに強烈な衝撃を受けた。
『ツナグ』辻村深月 著という小説。ボクが初めて読んだ辻村さんの小説は、本屋大賞を受賞された『かがみの狐城』という作品。この小説の世界観にツボってしまったので、彼女の作品を追いかけることにした。
この『ツナグ』は映画なったことは知っていたので、とりあえずここから読んでみた。だけど、とりあえずなんて言葉が失礼なほど素晴らしい作品だった。この小説のコンセプトといい、設定といい、そして全体の構成といい、ボクは脱帽するしかない。本当にすごい作家だと思う。
小説では『使者』と書いて『ツナグ』と読ませている。これは生きている人と、死んだ人をつなぐから『ツナグ』と呼ばれている。渋谷歩美という17歳の男子高校生が『ツナグ』という仕事をしている。
実際は祖母が持っている能力で、祖母の実家である秋山家に代々伝わる秘儀という設定になっている。死者と会うためには大切な条件がある。
生きている人は生涯に1度しか死者と会えない。1度でも誰かに会ってしまうと、その後に別の死者に会うことができなくなる。
そして死者も生きている人に会うのは1度だけ。もし迷ってキャンセルした人には2度と会えないから、慎重に選ばないとたった一度きりのチャンスを逃すことになる。
基本的には生きている人が面会を申し入れ、それを死者が受け入れるかどうかを決める。場所は品川のホテルの一室で、時間は満月の日の入りから日の出まで。ただし雨が降っていたりすると月の影響が落ちるので、時間が短くなったりする。
会いたい人は芸能人だったり、母親だったり、親友だったり、婚約者だったりする。どれもにそれぞれの会いたい事情があり、死者のほうにも会おうと決心する理由がある。そのあたりの描写が素晴らしいので、激しく心が揺さぶられてしまう。
ボクが号泣したのは、7年前に失踪した婚約者の女性と会った男性の物語。結婚を申し込んで指輪も受け取ってくれたのに、友人と旅行に行くと言ったまま消えてしまった。それで自分との結婚が嫌になって逃げられたんだと男性は思い込もうとして7年も過ごしてきた。
だけど彼女のことをあきらめられない。それで『ツナグ』に依頼することになる。だけど許可が出たら、同時に婚約者の死を受け入れなければいけない。知らないままならどこかで生きていると思える。この男性の葛藤が心に迫ってきて苦しかった。
そして結果として婚約者の女性はフェリーの事故で死んでいた。もしこの小説を読もうと思う人がいたらネタバレになるので書かないけれど、ボクは彼女の事情を知って号泣してしまった。この物語が最高に切なかったなぁ。この二人が死別しなければいけないことが残念で仕方なかった。
さらにこの小説が素晴らしいのは最後の章。『ツナグ』である渋谷歩美の父は母を殺して自殺していた。だけどその真相が明らかになる。同時に先の4つの物語の『ツナグ』から見たバックヤードも物語になっているので、より感動が深まっていく。いやいやマジですごい小説だった。
この物語には続編があるそう。『ツナグ2』が連載されていて、今年の秋には単行本化されるらしい。ということは正真正銘の『ツナグ』になった歩美の新しい物語をもう一度読めるんだね。楽しみだなぁ。映画もチェックしてみよう。
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