死体が伝えるメッセージ
人間の死体に接することは、現在ではそれほど多くない。身近な人が亡くなって、棺に入れられた姿を見るくらいだろう。
でも太平洋戦争当時なら、戦地でなくても遺体を見ることはあった。歴史的にさかのぼれば、都があった京都に住んでいた人なら戦乱による死者なんて飽きるほど見ていたにちがいない。
時代や状況によってちがうだろうけれど、死体から伝わる無言のメッセージというものがあるような気がする。オカルト的な話じゃなくて、死んでいる人間を目にすることによって、『生きる』ということに関する無言のメッセージを受け取るのではないだろうか?
ボクが20代のころ、消防設備点検の仕事で医科大学に行ったことがある。授業の邪魔にならないよう休み時間に入室する。いまでも記憶に残っているのが、解剖実習前の様子。
ざっと見ても2〜30ほどの献体が、解剖を待って金属のベッドの上に置かれていた。布が巻いてあって、その上からビニールで包まれている。かすかに見えるのは手足と白髪くらい。だけど人間であることはわかる。医学生でもない限り、こんな場面に遭遇することはないだろうね。
医師たちが解剖途中で遺体を置いたままの部屋に入ったこともある。大学が畜産学科だったので家畜の解剖は経験がある。でもさすがに人間はシャレにならない。うまく言語化できないけれど、死体を見ることによって強く何かを感じることがあったのは事実。
そんな死体が伝えるメッセージがテーマになった小説がある。
『スタンド・バイ・ミー』スティーブン・キング著という小説。
映画は少なくとも10回以上は見ている作品だけれど、ようやく初めて原作を読んだ。タイトルはこうなっているけれど、元々は『恐怖の四季』というタイトルで、4つの中編小説が収められていたもの。文庫本ではそれが2冊に分冊されている。
この本には『スタンド・バイ・ミー』jと『マンハッタンの奇譚クラブ』という2つの小説が収録されている。ちなみに残り二つは『刑務所のリタ・ヘイワース』(映画ではショーシャンクの空に)と『ゴールデン・ボーイ』という作品で、映画も観たし原作も読んでこのブログで紹介している。
『スタンド・バイ・ミー』に関しては説明する必要はないだろう。もしまだ映画を観たことがない人がいたら、一度は観るべき素晴らしい作品なのでオススメ。4人の少年の勇気の物語。
初めて原作を読んだけれど、映画がかなり忠実に作ってあったことに感動した。そしてやはり事故死した少年の死体を見つけたことで、この4人の人生が大きく変わったという設定も同じ。ただやっぱり原作のほうがはるかにいい。ようやく少年たちの真実に出会えた気持ちだった。
この4つの作品のなかで、唯一映画化されていないのが『マンハッタンの奇譚クラブ』という作品。弁護士事務所に勤める主人公が、ある日上司に誘われて通うことになった秘密クラブの物語。
詳しく書かれていないけれど、そのクラブは異世界とつながっているのはわかる。おそらくスティーブン・キングお得意の、『ダークタワーシリーズ』に登場するパラレルワールドだと思う。
ただこの小説は異世界についてではなく、このクラブに在籍している医師が語った物語がクライマックスになっている。それがなんとも切なくて、ある意味恐ろしくもあり、おぞましくもある。
医師と深い交流を持つことになった独身の妊婦が、出産を控えて病院にやってくる。ところが交通事故に巻き込まれて首が切断する。それなのにラマーズ法の呼吸を続けることで、お腹の子供の命を守ったという物語。
この医師が子供を取り出すのに数十分はかかったのに、そのあいだ首のない遺体は呼吸を止めなかった。そして無事に子供の命を助けたとき、その女性の頭が医師にお礼を言う。恐ろしいけれど、切なくなる物語だった。ちなみにその子供は成人して、世に名を残す学者になったという設定。
どちらの物語も死体を使うところがスティーブン・キングらしいけれど、彼のホラーが苦手な人にはオススメの小説だと思う。怖い物語もあるけれど、この4作には悪霊や化け物は出てこない。それだけでなく、読み終えると心に何か温かいものが宿る物語たちだった。
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