他人を見下すと怖いことになる
人間は他人を批判するのが大好き。家族で集まってテレビを見ていると、ニュースやワイドショーを見ながら著名人を批判する。
まぁそれは別に悪いことじゃないと思う。家庭内で話しているだけなら、そこで終わるからね。ボクも妻と二人で、テレビを見ながらよくぼやいているw
ただ注意するべきはことが二つある。他人を批判しているときは、無意識であっても自分が『正しい』と思い込んでいる。つまり結果として、批判している相手を見下していることになる。このことは心のどこかで意識しているほうがいい。自分が「正しい』とは限らないから。
もうひとつは家庭内の会話から逸脱すること。SNS時代だから、家庭内の会話と同じ調子で他人を批判してしまうと大変。それは誹謗中傷であり、炎上要件になってしまう。ひどい場合は、誰かに恨みをかってしまうこともある。
他人を見下しているとどういうことになるか? そんなことをテーマにした小説を読んだ。
『凍りのくじら』辻村深月 著という小説。辻村さんの作品を追っかけ中で、これは著者が吉川英治文学新人賞を受賞した小説。
主人公は芦沢理帆子という25歳のカメラマン。父も同じく写真家で、親子そろって有名な賞を受賞している。ただ父は彼女が5歳のときに行方不明となっていた。末期がんを患っていたので、妻と娘に死ぬ姿を見せないようにどこかで自殺したという設定。
この理帆子が高校2年生のときに経験した出来事が、この小説の中心になっている。理帆子は少し変わった女性で、自分の居場所を見失っている。だからと言って引きこもりになるのではなく、演技することでどんな仲間の輪にも入っていけた。
優等生の友人もいれば、いじめられっ子の友人もいる。夜になると朝まで遊びまわるような友人もいるし、大学生の元恋人もいた。だけどそれは相手に調子を合わせているだけで、自分と一緒にいる人物をいつも見下していた。心のなかで、勝手に相手をラベル化していた。
そんな彼女がある日、同じ高校の先輩に声をかけられる。写真家を目指している別所あきらという生徒。理帆子にモデルになって欲しいと依頼するが、最初は断る。だけど理帆子は不思議と別所に対してだけは、正直に自分のことをさらけ出せるようになる。
だけど物語の中盤から、怪しい雰囲気になってくる。元恋人だった若尾は、弁護士志望。だけど試験に受からなくて苦労している。若尾から彼女をふったにも関わらず、試験に落ちてから彼女に接触してくるようになった。
周囲の友人からは会わないように言われているのに、理帆子は若尾と会う。それにはいろいろ理由があるけれど、試験に失敗して腐っていく若尾を見たいという好奇心があったから。そして若尾は本当に腐っていた。心が崩壊しつつあった。
理帆子が気づいたときは遅かった。若尾はストーカーと化し、彼女のすべてにつきまとう。そして彼女に接する友人たちを攻撃し始める。若尾の心が壊れていく様子は、読んでいて背筋が冷たくなった。マジで怖かった。
その結果、懇意にしていた少年を若尾に殺されそうになる。この段階でようやく他人を見下すことの愚かさに彼女は気がつく。そして見下していた友人たちが、どれほど自分にとって必要な人たちだったかに気づく。
その彼女をずっと支えてきたのは、別所あきらという先輩だった。この小説の最大の山場は、この人物の正体にある。ボクは物語の中盤あたりで、別所の正体に気がついた。それでも、やはり驚いた!
めちゃくちゃいい小説なので、読んでみようと思う人はここで終わりにしたほうがいい。さて、ネタバレするよ〜〜!
別所あきらの正体は、理帆子の亡くなった父親だった。つまり別所あきらという人間は、彼女にしか見えていなかった。『シックスセンス』という映画があるけれど、あれと同じ設定。最後まで幽霊だとは気づかないように構成されている。
わかっていても泣いた。心が震えた。なぜなら理帆子の心を占めていたのは、父を見殺しにしたという罪悪感だったから。そして彼女を写真家の道へと誘ったのは父だったから。本当にいい小説だったなぁ。
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