窃盗をやめられない理由
心理学や精神医学は日々進歩しているが、人間の心はまだまだ謎が多い。まったく同じ出来事を体験しても、人によってその反応がちがってくる。ある科学者はそれが遺伝子によるものだと説明するし、別の科学者は後天的な環境によるものだと反論する。
例えば幼いころに生き別れた双子が、成人してほとんど同じ境遇にいることがある。ボクも何度かテレビや本で見たが、やらせかと思うほど驚いた。結婚した夫や自分の子供の名前まで同じと言う事例があった。
こうなると遺伝子説は有力だけれど、もちろん反論はできるだろう。もし同じ遺伝子を持っていても、180度ちがう環境で暮らせば同じ人生を歩めるとは思えない。そういえばこのことをテーマにした小説があった。新しい『ミレニアム』シリーズの最新作がそうだった。
いまは研究が進み、かつネットで情報が幅広く拡散される。だから人間の心について、少しずつ謎が解明されつつある。そしてそれは、PTSD等の治療にも活かされている。
だけどボクが生まれた50年ほど前、この分野に挑んだ映画がある。当時としては画期的だったと思う。監督はあのヒッチコック。
『マーニー』と言う1964年のアメリカ映画。007でブレイクしたばかりの若いショーン・コネリーが出演している。主演を演じた女優さんは、ティッピー・ヘドレンという人。あまりよく知らないけれど、メラニー・グリフィスのお母さんとのこと。
タイトルのマーニーという女性は盗癖がある。会社の経理として採用されると、金庫の金を持ち出して逃げる。いくつも名前を変え、全米の各地で窃盗を続けていた。だけどいわゆる泥棒稼業というものではない。
マーニーの過去に、本人の記憶から消えている出来事があった。そのことによって、彼女は盗めをやめることができない。新しく採用された会社の金を盗んだとき、目をつけていた社長に盗みを知られてしまう。
だが社長のマークは、彼女に一目惚れした。そしてさらに、彼女が病気であることを知る。それで警察に突き出さず、あえて自分と結婚するように仕向ける。どうしても彼女を助けたかったから。
マーニーは『赤色』を極端に嫌う。そして男性に触れられることに恐怖を覚える。さらに深夜に悪夢で叫び声をあげる。そこでマークは必死になって、なぜ彼女がそんな精神状態になったかを探求してく。そしてラストで、真実が明らかになるという物語。
少女時代のトラウマが理由だというのは、現代では割と普通にある展開だろう。だけど1964年当時はかなり斬新だったと思う。いま見ると少しやぼったい印象は拭えないけれど、それでも最後まで見応えのある内容だった。
マーニーは封印していた恐ろしい記憶を取り戻すことで、ようやく回復の兆しを見せる。悲劇で終わらなくてよかったな、と素直に思える作品だった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。