復活した『自殺のプリンス』
作家や映画監督に対するイメージというものがある。コッポラといえば『ゴッド・ファーザー』をイメージするし、スピルバーグといえば『未知との遭遇』が頭に浮かぶ。たとえばコッポラが『E.T』のような映画を撮ったら映画界が騒然とするほど、イメージというものは固定している。
そしてスティーブン・キングといえば『キャリー』を筆頭に、オカルトや超能力者、あるいは異世界の悪魔が暴れる物語をイメージする。まもなく公開される『IT』の続編や『ドクタースリープ』という映画は、まさにキングらしさを象徴したような作品だと言える。
ところが彼の小説で、かなり本格的なミステリー作品がある。それは退職警官であるビル・ホッジスを主人公にした物語。全部で3つの作品があり、最初の2作品についてはこのブログで紹介した。
そしてついに最終章である3つ目の作品を読み始めた。それまでの2作品で徹底して『普通』のミステリーを書き続けてきたキングが、ついに彼の本性を見せてくれた〜!
『任務の終わり』上巻 スティーブン・キング著という本。
この第3作の悪役は、第1作で登場したブレイディという青年。彼のことをホッジスは『自殺のプリンス』と呼んでいる。なぜなら定年退職したばかりのホッジスを自殺させようと仕向けたから。暗示をかけることで、相手を自殺に追い込もうとする性癖のようなものがある。
ブレイディにはテロリスト的な側面もあり、最初の事件では盗んだ車を行列に突っ込んで8人の人間を殺している。さらにコンサート会場にプラスチック爆弾をしかけ、数千人を殺そうとしていた。
だがその直前でホッジスに見破られ、ホリーという女性の相棒の機転によってブレイディは逮捕される。その際、ホリーがブレイディの頭を強打したことで、彼は植物人間となって病院に収容されていた。
この第3作では、奇跡的に意識を取り戻したブレイディの復讐が中心。ただし、周囲の人間にはまだ回復していないと見せかけている。何も反応できず。ただぼんやりと窓の景色を見つめて生きているだけだと思わせている。
そんな彼がなぜホッジスに復讐できるのか? ここからがキングの真骨頂となる。
脳の損傷がもとで、彼は超能力を持つことになった。念力を使えるだけでなく、他人の心に侵入することができる。つまり肉体は病院に置いたままで、他人の身体を使って犯罪を実行することが可能だということ。
ホッジスの周辺で謎の自殺が続いたことで、彼はブレイディの関与を確信する。前2作はミステリーとしての犯罪捜査がメインだったけれど、この第3作は超能力者との対決が物語のテーマとなる。
さすがキングだよね。こういう展開になったらめちゃ面白い。ブレイディが他人の心に侵入するために、携帯用のテレビゲーム機を使っている。一種の催眠効果のある映像を使うことで、相手の心に侵入する。そして自殺をするように仕向けていく。
上巻のラストでは、そのカラクリをようやくホッジスとホリーが見つけ出したところ。まだブレイディの関与まで証明できていない。もし証明できたとしても、起訴できるかどうかは微妙。だって本人は病院にずっと入院中だからね。
さらに困った問題がある。ホッジスにガンが見つかり、余命宣告を受けている。つまり彼には時間がない。命あるうちにブレイディの犯行を証明して彼を捕まえることができるのか?
下巻が気になって仕方ない。『任務の終わり』というタイトルからしてホッジスの死を予告している。とにかくキングらしい展開になってきたので、いまから下巻の内容が気になってワクワクしている。
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