生きた人間が憑依する恐怖
そんなアホな、と思うようなことを、もしかしたらあり得るかもと思わせる作家がいる。小説というのフィクションであり、要するに嘘の物語。
だけど嘘のなかに真実を散りばめることによって、すべてが本当のことのように思えることがある。そのバランスを誤ると荒唐無稽な物語に思えたり、ありきたりなストーリーになってしまう。
そうした虚実の取り混ぜが抜群にうまい作家の一人として、スティーブン・キングがいる。昨日読了した作品も、実際には起こり得ないこと。だけどもしかしたら本当にこんなことがあるかもしれない。そう感じてしまう作品だった。
『任務の終わり』下巻 スティーブン・キング著という小説。上巻についての感想は『復活した「自殺のプリンス」』という記事に書いているので参照を。
化け物や幽霊が登場する物語ではなく、著者が本格的なミステリーを意図した作品。ホッジスという定年退職した警官と、ホリーという中年女性、そしてジェロームという若い黒人男性がチームを組んで悪と戦う物語。
『任務の終わり』は3作あるホッジス・シリーズの最終作で、悪役はブレイディという青年。第1作で1000人以上の人間を殺そうとする直前、ホリーに頭を強打されて植物人間になっていた。
そのブレイディが復活する。ただし肉体は廃人同様。ただし頭を強打したことでブレイディは超能力を持った。念力はもちろん、最強の武器は相手の脳に侵入して人格を乗っ取ること。
『自殺のプリンス』と呼ばれるブレイディは、大勢の若者を自殺させようとする。まだ昨年に出版されたばかりの小説なので、詳細を知りたくない人はこの先を読まないほうがいいかも。
ブレイディは自分の担当医に憑依する。そして最終的にその医師に自分の肉体を殺させることで、初老の医師としてホッジスに復讐しようとする。そんなことあり得ないと思うだろうけれど、順を追ってこの物語を読んでいると疑いの気持ちが出てこない。本当にありそうな気がする。
ホッジスは末期ガンを患っていた。だから彼には時間がない。病魔と闘いながら、医師に取り憑いたブレイディの野望を打ち砕こうとする。そのあたりの攻防はかなり読み応えがある。
現代社会におけるコンピュータやスマートフォンの普及が、物語に欠かせない要素となっている。『自殺の連鎖』という人間の集団心理にも切り込んでいる。著者自身が、アメリカ社会における若者の自殺を危惧しているのがよくわかる内容だった。
そもそも犯人が自分の肉体を殺し、他人に憑依して犯罪に走るなんて……。よくこんな発想ができるよね。そしてそのことにリアリティを持たせるなんて本当にすごい。ハッピーエンドになるけれど、最後の最後までハラハラドキドキする。ミステリーが好きな人はオススメだよ。
第1作目はすでにドラマ化されているそう。第2作はスターチャンネルで来月からドラマが放送されるらしい。無料でやってほしいけれど無理だろうなぁ。そのためにスターチャンネルに加入するのも面倒だし。いつかどこかで放映してくたら、何をおいても観たいと思う物語だった。
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