過去の妨害が巧妙すぎる
現実に起きてしまったことを変更するのは不可能。だけど過去に通じる道があって、やり直すことができるとしたら? そう願う人は大勢いるかもしれない。
ただし時の流れはその変更を受け入れるだろうか? もしかしたら過去は強烈に抵抗するのでは?
その疑問をテーマにした小説がある。
『11/22/63』中巻 スティーブン・キング著という小説。上巻についての感想は『過去はやり直しを妨害する』という記事に書いているので参照を。
2011年から1958年に旅立ったジェイクは、ジョージと名を変えて過去に潜伏する。その目的は1963年11月22日に起きるJFKの暗殺を阻止するため。ケネディ大統領の命を救うだけで、ベトナム戦争を含めた何万人という人たちの命を助けることになる。
アルというダイナーの主人からその使命を受けついだジェイクは、暗殺事件が起きたダラスの近くにある田舎町で高校教師の職にありつく。2011年でも高校教師だったジェイクにとっては、もっとも成り済ますのが容易な仕事だった。
そして1962年にソ連からアメリカに帰国する暗殺犯のオズワルドを待ち、彼が住むことになる家を監視するための準備に入る。これが中巻の始まり。
だけどそれはやり直しを望まない過去の妨害だったことがのちにわかる。過去は強引に邪魔をするのではなく、巧妙な手を使ってジェイクの行動を阻止しようとする。
高校教師となったジェイクは、その街を心から愛してしまう。2011年では経験したことのないような生徒たちとの感動の日々を送る。彼のアイデアによって未来の男優が生まれ、自殺しようとした女子高生の未来も救った。
そしてさらにこの街を離れがたい出会いがあった。セイディーという女性司書と恋仲になり、本音としては2011年に戻る気持ちを失いつつあった。このままこの時代で暮らそうと感じさせるのは、過去が仕組んだ罠でもあった。
どうにか自分の使命を思い出したジェイクは、ようやくオズワルドに近づく。問題は本当に彼が真犯人であるかどうかということ。現在でもあの事件については様々な憶測が流れている。もしオズワルド以外に黒幕がいれば、いつかはケネディ大統領が殺されてしまう。
だからジェイクは高校教師の仕事や恋人に愛着を持ちつつ、オズワルドが単独犯がどうかを確認しようとする。もし単独犯だと確信できたら、オズワルドを殺せば終わり。その後は未来へ戻らずにこの世界に残るつもりだった。
オズワルドが単独犯かどうかは、ケネディ大統領暗殺の7ヶ月前に起こしたウォーカー将軍暗殺未遂事件が鍵を握っている。反共産主義の将軍を狙ったのはオズワルドにまちがいない。それが彼の単独犯なら、ケネディ大統領の暗殺もそうだと断定できる。
ジェイクは完璧な計画を練って、ウォーカー将軍の暗殺に向かうオズワルドを追う。ところがここになって過去が強硬手段に出る。ジェイクの恋人であるセイディーには過去に夫がいて、その男はかなりヤバいやつ。そしてそのときになってセイディーを見つけ出し、彼女に重傷を負わせる。
さらにいまの恋人であるジェイクを呼びつけて、セイディーの自宅に来なければ彼女を殺すと脅した。ジェイクは葛藤するが、オズワルドを追いかけるのはあきらめて、セイディーの救出に向かう。そしてどうにか彼女を助けたところで中巻が終わった。
なんて面白い小説だろう。オズワルドについてかなり詳しい調査がなされているようで、ボクのなかにその人物像がいまでもありありと残っている。実在の人物であるのに、物語の登場人物としてもその存在を強く意識している。
さてさて下巻はどうなるのだろう? セイディーは顔に深い傷を負ったので気になるし、オズワルドの単独犯は確認できなかった。ケネディ大統領の暗殺まで半年余り。過去はどのように抵抗してくるのだろう? そしてジェイクはそれにどう立ち向かうのか?
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