狂気の魂を救った初めての愛
不当ないじめは、人間を孤独から孤立へと追いやる。その結果生まれるのは絶望と復讐だろう。
絶望に至った人間は自ら命を絶ち、復讐へと至った人間は狂気に走る。それは現代だけの問題ではなく19世紀でも同じ。
不当な虐待を受けたある男が、絶望でななく復讐の道を選んだ。そして彼は『怪人』と呼ばれることになる。
『オペラ座の怪人』(原題: The Phantom of the Opera)という2004年のアメリカ映画を観た。
有名な作品なのでタイトルは知っていた。だけどなかなかその気になれず、初めてこの作品を観た。映画化としては、おそらく最新のものだろう。といっても原作の映画化というより、有名なミュージカル作品を映画化したもの。
期待せずに観たけれど、ミュージカル好きのボクは冒頭でハマってしまった。そして2時間半ほどある作品なのに、もっと観たいと感じるほどこの物語の世界観に圧倒されてしまった。これは何度も映画化されたりミュージカルになるのがわかる。素晴らしい物語だと思う。
原作とは少し設定がちがうそうだけれど、『オペラ座の怪人』ことファントムは、生まれつきの醜い顔ゆえにサーカスで見せ物にされていた少年だった。映画の『エレファントマン』を思い出した。
だけどある日、オペラ座の踊り子だった女性に助けられ、オペラ座のバックヤードで暮らすようになる。だが醜い顔ゆえ、その姿を見せることはなかった。成人したファントムは芸術家としては天才で、オペラの名作をいくつも書いている。
自分の書いたオペラを上演させるため、出演者や興行主を脅してオペラ座の影の支配者となっていた。そんな彼が、クリスティーヌという若手の歌手の才能に惚れ込む。天才であるファントムが人しれずクリスティーヌを指導することで、彼女はやがてスターとしてデビューすることになる。
だがクリスティーヌには互いに思いあった子爵のラウルがいた。ファントムは自分を愛して欲しいが、醜い顔では自分が好かれるはずがない。嫉妬に苦しみながら、どうにかしてクリスティーヌを手に入れようとする物語。
その過程でファントムは人を殺す。そのことに躊躇しない。幼いころから不当ないじめや虐待を受けてきたことで、顔だけでなく心まで大きくゆがんでいた。そんなファントムの悪巧みは、最後に成功しそうになる。
ところがゆがんだファントムの心を正気に戻したのは、拉致されたクリスティーヌだった。彼女はファントムの魂の本質を見抜いていた。芸術家としての才能を信じることで、彼が心底の悪人でないことを直感していた。
このシーンは本当に泣ける。自分のものになるか、それを拒否するのならラウルを殺す、とファントムがクリスティーヌを問い詰めた。彼女はそんな彼に近づいて口づけを交わす。
そして言う。「あなたはひとりぼっちではない」と。
その瞬間、ファントムは目を覚ます。初めて自分に向けられた愛に心を撃ち抜かれ、クリスティーヌとラウルの二人を逃す。そして彼は深い闇へと消えていく。
それが1870年のこと。そしてそれから時が経って1919年に、ラウルが妻であったクリスティーヌの墓参りに行く。そのとき、墓場にファントムが置いた花束を見つける。彼はずっとクリスティーヌを影から愛し続けていたんだね。本当に泣けるラストシーンだった。
ミュージカル映画としても素晴らしいけれど、この映画は構成が素晴らしい。モノクロシーンをカラーシーンをうまく混ぜることで、絶大な効果を出している。特にオープニングでシャンデリアが登場するシーンは、いまでも強く心に残っている。
こうなったら原作を読んでみたいし、舞台でミュージカルも見たい。いまごろになって、この物語にハマるとは思わなかったなぁ。
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