まさに血が凍る恐怖だった
事実ほど恐ろしいものはない。そのことを痛感させられた本を読んだ。
『ティファニーで朝食を』という物語を知っている人は多いだろう。ボクも原作を読んだことはないけれど、オードリー・ヘップバーンが主演している映画は観ている。その物語を書いた著者が、真の恐怖を書き残していた。
『冷血』トルーマン・カポーティー著という本。
著者は小説家でもあるけれど、これはフィクションではない。1959年に起きた本当の殺人事件について書かれたもの。完璧なノンフィクション作品になっている。ところが普通のノンフィクションとはちがう。
事件の被害者、加害者、そしてそれらの家族、さらにその人たちに関わる街の人々、刑務所の囚人、警察や検察や弁護士を含めた数え切れない人たちの心情が語られている作品。
だから無機質なレポートではなく、カポーティーの作家としての技量が完璧に結実している。小説のような文体で『事実』が書かれることで、読者が体感する恐怖は時空を超えて『今』起きているように感じられる。まさにタイトルどおり、血が凍るような恐ろしさだった。
事件はカンザス州のホルカムという小さな村で起きた。何の罪もない一家四人が惨殺された。ディックとペリーの二人は、刑務所でこの農家には多額の現金があると聞かされる。ところがこの家の主人は小切手主義で、現金を手元においていない。
1万ドルはあると思ったのに、犯人の二人が手にした現金はたった50ドル。そんな金を得るために4人を殺してしまった。ただ普通の強盗なら、こんなことにならなかっただろう。現金がないと思って逃げ出すか、暴行を働く程度で終わっていたはず。ところが犯人には普通じゃない男がいた。
それがペリー。犯罪の証人を殺せと息巻いていたのはディックだけれど、むしろペリーはそんなディックを諫めていた。もともとはその家へ強盗に行くことも拒もうとした。なのに4人を殺したのはペリーだった。
とてつもなく分量の多い本だった。だけど読み出したら手を止められない。5年以上の歳月をかけて著者が取材しただけあって、事件に関わった当事者の生い立ちや精神構造が手に取るように理解できる。
ペリーという人間が抱えていた心の闇は深い。それは彼の生い立ちに原因があった。殺された4人に対して、ペリーはとても親切に接している。拘束の方法にしても痛みがないように配慮したり、マットを引いて楽にできるように気を配っている。
娘のナンシーをレイプしようとしたディックを止めたのもペリーだった。ところがなんの感情を示すこともなく、ペリーは4人を惨殺している。このあたりの闇の深さは、この本を読まないと理解できないだろう。いや、理解できたとしても、納得はできないかもしれない。
事件前の出来事から、犯人の二人が絞首刑になるまでが詳細に書かれている。この本を読むと死刑制度の是非についても考えさせらる。死刑制度反対のボクだけれど、とても複雑なものを感じてしまった。
いやぁ、マジですごい内容だった。映画にもなっているそうだけれど、この本の内容を映像だけで語るのは難しいと思う。ボクにとって、忘れられない作品になった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
『第1回令和小説大賞』にエントリーした小説を無料で読んでいただくことができます。くわしくはこちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする