人間観察の落とし穴
ある本を読んで、紀元前の人も現代人も基本的に変わらないんだなぁと笑えてきた。人間というものは、精神的にあまり進化していないらしい。
『人さまざま』テオプラストス著という本。
テオプラストスは紀元前372〜288年に活躍したギリシャの哲学者。アリストテレスの一番弟子らしい。この本は、著者が当時のギリシャの人々を観察して、その感想を残したもの。その内容は、そのまま現代人に置き換えても違和感がない。
たとえばこのような人たちについて語っている。
無駄口、粗野、おしゃべり、恥知らず、けち、お節介、いやがらせ、へそまがり、不潔、無作法、虚栄、しみったれ、ほら吹き、臆病、年寄りの冷や水。
まだまだある。それらについて実例をあげて、著者の感想を語っている。当時の生活を知る上でとても貴重な資料らしい。人間のやっていることや考えていることは、いまでも同じだということがよくわかる。読みながら何度も笑い転げてしまった。
多くの著作を記した著者らしいけれど、現存している文献は少ないらしい。この作品についても、のちの時代の人が書いたのではという意見も出ていたそう。だけど慎重に研究がなされた結果、テオプラストスが書いたものとして正式に認められている。
面白く読んだんだけれど、かなり気になることがあった。それは著者の視点。
基本的に他人の悪口なんだけれど、相手を見下している感が伝わってくる。つまり自分は常に正しくて、そういう行動を取る人がダメなんだと言っているように感じる。ソクラテスなんかはそんなふうに感じない。この違和感が、最初から最後まで抜けなかった。
人間観察は面白い。それは小説を書くうえでも欠かせない。だけど客観的な視点を維持するのは、思っているよりはるかに難しい。自分のことを棚に上げて、他人を批判的な視線で判断していることがある。それで相手のすべてを知ったような気でいる。
これはとても危険なことだと思う。いわゆる現代社会におけるネットの炎上は、こうした主観の暴走が起因となっている。芸能人の不祥事に対する批判もそうだろう。自分に何の実害もないのに、テレビに出るな、芸能界を去れ、と声をあげる。
それは自分が正義を裁く裁判官のような気分になっているから。相手がどんな人かも知らないのに、たったひとつの事実だけで人間性を否定してしまう。韓国の芸能人に自殺が多いのは、そうしたネットでの誹謗中傷が大きく影響しているんだと思う。
人間観察の落とし穴には要注意。普段から意識しておかないと、他人を自分勝手に裁いていることがある。ボクもときにはやってしまう。他人に対する思いやりのある配慮は、紀元前の人も現代人も同じだよね。
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