久しく胸キュンしていない人へ
世知辛い現代社会で生きていると、胸キュンとなる機会が少ない。仕事や人間関係のストレスで疲弊しきっていて、そんな気分になれない人が多いだろう。
せいぜいTwitterで可愛い猫の動画を見て癒される程度。そんな人にオススメの映画を紹介しよう。少年少女時代に経験した胸キュンが、きっと鮮やかによみがえってくると思うよ。
『はじまりのボーイミーツガール 』（原題：Le coeur en braille）という2016年のフランス映画。
相変わらずダサい邦題。だけど実際に観ると素晴らしい作品だった。フランス語はわからないけれど、原題を直訳すると『点字の心』となる。もっとちがう言い回しができるんだろうけれど、この映画を観たらそのタイトルの言わんとするところがわかる。
12歳の少年と少女の物語。主人公の少年はヴィクトールという名で勉強が苦手。だけどクラスで一番の秀才であるマリーが気になっていた。そんなマリーから声をかけられる。「あなたの勉強を手伝ってあげる」という提案だった。
マリーのおかげでヴィクトールの成績は良くなる。だけどマリーには秘密があった。彼女は遺伝的な目の病気を抱えていて、いずれ失明してしまう運命だった。いまもかなり視力が落ちている。だけどチェロの名手で、どうしても音楽学校を受験したい。
両親はマリーの受験に大反対。特に父親はかなりのへんくつ男で、娘を心配するあまり入院させようとしていた。このままでは音楽学校を受験できない。だから自分が普通の学校でも大丈夫だということを両親に証明するため、ヴィクトールに助けてもらおうと思っていた。
自分が利用されていたことを知ったヴィクトールは怒る。一時は決裂しそうになるけれど、すでに二人は互いに恋心を抱いていた。ヴィクトールは賢明になってマリーを守り、音楽学校を受験させようとする物語。
ボクの勝手な想像だけれど、この映画は『小さな恋のメロディ』のオマージュ作品だと思う。二人の関係がよく似ているし、チェロという楽器も介在している。
さらに病院からマリーを脱走させるためヴィクトールの友人たちが手伝うシーンは、『小さな恋のメロディ』でダニエルとメロディが結婚式を挙げてトロッコで逃げていくシーンと重なる。あのときもトムを始めとする友人たちが教師から二人を守った。
シンプルだけど、とてもよくできた映画だった。二人のファーストキスのシーンなんて、なんとも微笑ましい。大人の感覚だとこの二人の未来が順風満帆じゃないことを想像してしまう。初恋とはそんなもの。
だからこそ大人が忘れている胸キュンを呼び起こせる。この二人の恋がいまのままであって欲しいと願ってしまう。そしてこの二人なら、きっとそうなると信じられるような気がする。
この映画を観てそんな想いを抱くことができたら、また明日からのきびしい現代社会を生きていけると思う。これこそが映画や小説の持つマジックだよね。
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