アンタッチャブルゆえの独裁
家庭内のDVや子供への虐待は、家庭外の他人の目や介入によって防ぐことができる。児童相談所に関しては様々な問題が指摘されているとはいえ、子供を暴君の親から守るために一定の機能を保持している。もちろん警察だって可能な限りDVによる犯罪を防ごうとしている。
だけどそれは物理的に介入することができるから。もし家族に暴力をふるっている人間の存在を把握したとしても、その家が難攻不落の要塞のようになっていたら警察も児童相談所も手が出せない。つまり暴君の独裁を止めることは不可能になってしまう。
この家庭という単位を、ひとつの街にまで広げた小説がある。
『アンダー・ザ・ドーム』3 スティーブン・キング著という小説。全4巻の第3巻を読了した。ここまでの感想については、『隔絶された社会は腐敗する』という記事を参照してもらえばと思う。
正体不明の透明なドームに閉じ込められたメイン州のチェススターズミルという街。ミサイルも強い酸でもそのドームを破壊することができない。小さな田舎町は、アメリカでありながら独立国家のようになってしまった。
その状況でこの街を支配しようとしているがビック・ジム。そしてそれに対抗するのがアメリカ大統領から指名を受けた元軍人のコックであるバーバラ。この両者の対立は街を二分することになった。
バーバラは、ビック・ジムと息子のレニーが殺した4人の殺害容疑で無理やり投獄された。それが第2巻のラスト。第3巻になってもその状況は変わらず、ヒーローであるはずのバーバラは警察の留置場から動けない。
ビック・ジムはこの街で覚醒剤を密造して、その販売で大量の金を集めていた。そうした悪事をばらされないために、街を支配しようとしている。ところがメイン州の司法省も警察も、そして軍隊でさえビック・ジムの犯罪を把握していた。なのにドームのせいで介入することができない。
第3巻ではビック・ジムの恐怖政治がさらに進行する。自殺者があいつぐなか、バーバラの仲間になりそうな人間が警察をクビになったり、ラスティというもうひとりのヒーローになりそうな医師も、バーバラと同じ殺人容疑の濡れ衣で逮捕される。
その一方でラスティの指示を受けた少年少女のグループが、ドームの発生装置を見つけ出す。いまのところは宇宙人が置いたものとしか思えない。だからすぐに解除することはできそうにない。
ビック・ジムは自分の支配のためにドームが必要。だからその装置を逆に守ろうとする。そしてついに町民集会が開かれ、ビック・ジムは住人からの全権委任を取り付けようと画策する。そのためには邪魔になった自分の息子さえ殺す計画をしていた。
バーバラ派の面々は、その集会の最中にバーバラとラスティを脱獄させるための手配を進めている。いよいよ一触即発という雰囲気になってきた。さらに恐ろしいのは、薬物中毒になったシェフという男が覚醒剤の製造工場に立てこもり、とてつもない量の爆薬をしかけている。完全に狂っていて、ビック・ジムも街の住民も皆殺しにしようとしている。
ここまでが第3巻。いよいよ最終巻となる第4巻に今夜から突入する。どのようならエンディングになるかのか、まったく予想できない。とにかくドームの存在や宇宙人的な要素は、この物語を構成するための材料でしかないのはたしか。
著者が描こうとしているのは、隔絶された社会の恐怖。警察権力も司法権力も介入できない無政府状態で、人間という集団はどのような行動を取るのか? 人間の良心はどう働くのか? そして人間の悪意はどこまで暴走するのか?
そのことがこの物語で語られているように思う。終わるのが名残惜しいけれど、いよいよ結末をたしかめにいこう!
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