音を立てたら即死
禅宗だったかどうか忘れたけれど、仏教で無言の行というものがある。定められた期間、誰とも話してはいけないというもの。たしかキリスト教でもそうした修行があったはず。
強制的な沈黙は思っているよりも辛い。話し相手がいなくても、つい独り言を口にしているのが人間だからね。そのうえ話せないだけでなく、音を立ててもいけないとしたらどうだろう? もし少しでも大きな音を立てた瞬間に殺されるとしたら、ボクは正気でいる自信がない。
登場人物がそんな恐ろしい状況に追い込まれた映画を観た。
『クワイエット・プレイス』(原題:A Quiet Place)という2018年のアメリカ映画。ずっと気になっていたホラー映画で、ようやく観ることができた。
なぜ気になっていたかといえば、この写真のエミリー・ブラントが主演しているから。ファンの女優さんは大勢いるけれど、ボクのイチオシを聞かれたら迷わずこのエミリー・ブラントの名前をあげる。正直いって、彼女は天才だと思っている。
そのうえこの映画は、彼女の夫であるジョン・クラシンスキーが監督と脚本で参加しているだけでなく、映画のなかでもエミリーの夫役で出演している。つまり本当の夫婦が夫婦役を演じている。だからどうしても観たい作品だたった。
2020年の地球の物語。宇宙から隕石に乗って恐ろしい生物がやってきた。エイリアンとプレデターを足したような獰猛な生物。ただし目が見えないらしく、匂いもあまり感じない。頼りにしているのは聴覚だけ。
だから音を立てると、ほんの一瞬で殺されてしまう。主人公のイブリンと夫のリーには3人の子供がいる。どうにか生き延びていたけれど、逃亡途中にオモチャで音を立てた末っ子が冒頭で殺される。
それから1年はどうにか生き延びていたけれど、宇宙人たちはこの一家をどこかで狙っている。困ったことに妻のイブリンは妊娠していた。そして映画の展開として出産することになる。普段の会話でさえ手話で通しているのに、出産となれば声は出るし、赤ちゃんだってギャン泣きする。どう考えてもヤバい。
というような一家が怪物と戦うホラー映画。まだ去年の作品なのでネタバレはやめておこう。厳密に言えば突っ込みどころが多い作品ではある。些末なことにこだわる人なら、イマイチだと思うかもしれない。
でもボクはこの映画を高評価している。物語の設定上、セリフがほとんどない。音を立てることができないから手話が中心になる。それゆえ『音』というものに対して、観ているボクたちが異常なほど敏感になる。だから不思議なもので、川の水音でさえ新鮮に感じる。
この『音』に対する緊張感が、とても巧妙に表現されていたと思う。人間という生き物が、数え切れないほどの『音』と一緒に暮らしているのがわかる。かなり特殊なシチュエーションを構築することで、物語をより魅力的にしていたと思う。
そして思ったとおり、エミリー・ブラントの演技は凄まじかった。実生活でも二人の子供の母親だから、家族を守る母親の姿にヒリヒリとしたものが伝わってきた。さらに夫役のジョンがエミリーを見つめる瞳に感動した。だって本当の夫婦だものね。
この映画の続編は来年に公開される。それほどこの作品ウケたということだね。同じくエミリー・ブラントが主演する。彼女にはいつかアカデミー女優になってほしいし、そうなると信じている。そして夫のジョンもアカデミー監督として成功してほしいなぁ。大好きな二人なので、心からそう願っている。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
『第1回令和小説大賞』にエントリーした小説を無料で読んでいただくことができます。くわしくはこちらからどうぞ。