腹をくくった人間の強さ
1970年代のロックミュージックで10代をを過ごしてきたボクは、ヒップホップを受け入れるのに苦労した。ロックというのは若者がその時代の閉塞感を打ち破り、新しい世界を築いていこうとするエネルギーを起爆剤にしている。
そういう意味ではヒップホップも同じ性質を持っているけれど、その背景にあるのは黒人に対する人種差別。ロック世代のボクはヒップホップの根底にある反骨的な精神を理解できても、人種的な抑圧に関しては想像の域を出ない。
それでも純粋に音楽として楽しめるようになった。本当の意味でヒップホップを理解しているとは言えないけれど、昔のように否定する気持ちはまったくない。最近のミュージシャンで好きなのはポスト・マローンかな。ドレイクもよく聴くし、マシン・ガン・ケリーも大好き。
女性ラッパーではカーディ・Bやニッキー・ミナージュもお気に入り。でもラッパーは本当に数が多く、次々に若い人が出てくる。できるだけ気になるミュージシャンをチェックしているけれど、なかなか追いついていないのがボクの現状。
そんなボクでも、ずっと以前から知っているラッパーがいる。いくつか曲も知っているし、いまでもバリバリの現役。
そのラッパーの名前はエミネム。黒人が主流だったヒップホップの世界で、白人のラッパーとしてグラミー賞を席巻したすごいミュージシャン。そんなエミネムの半生をモデルにした物語を、そのエミネム自身が主演している。
『8 Mile』という2002年のアメリカ映画。
映画の舞台はデトロイトで、この地域には都市と郊外を隔てる『8マイル・ロード』と呼ばれているものがある。そこは富裕層と貧困層、そして白人と黒人の境界線でもある。そんな『8 Mile』から必死で抜け出そうとする青年の苦悩を描いた作品。
エミネムの自伝的作品なので、彼も同じデトロイトで貧困にあえぐ生活を経験している。それとまったく同じく、主人公のジミーも母と妹とトレーラーハウスで暮らしている。絶望しかないような日々のなかで、ラッパーとしての才能を生かしてそこから抜け出そうとジミーは苦労する。
この映画は構成がうまい。最初のシーンでジミーはMCバトルと呼ばれている1対1のラップバトルの舞台に出る。だけど白人であるがゆえブーイングを受け、本当は才能があるのに舞台の上で沈黙してしまう。
ジミーはどうにか見つけた自動車工場での仕事にしがみつこうとしたり、嘘くさい友人が勧めるコネを使ってラッパーとしてデビューすることも考える。だけどことごとくうまくいかない。
そんなときアレックスという女性に出会う。アレックスも同じく『8 Mile』を抜け出そうとしていた。そのためには手段を選ばない。モデルの仕事を得てニューヨークに行くためなら、ジミーを平気で裏切って他の男と関係を持つ。
そんな彼女の態度に苦しみならも、ジミーは腹をくくったアレックスの姿に影響を受ける。『8 Mile』を抜け出すためには、自分も腹をくくるしかない。そしてラスト近くではラップバトルで決勝まで残り、ライバルの黒人ラッパーに圧勝する。
そのシーンがとにかくかっこいい。あえて自分の貧困、恋人の裏切り、バカな友人たちを受け入れることで、そのすべてをあからさまにラップにして吐き出した。ジミーをラップで罵倒しようと思っていたライバルは、その迫力に押されて完全に沈黙してしまう。
エミネムって普段でもハンサムでかっこいいんだけれど、この映画のエミネムはめちゃくちゃクールで最高だった。決勝で勝って優勝したのに、また夜勤の仕事に戻っていく後ろ姿がいい。単純なサクセスストーリーではなく、ジミーの内面の葛藤に焦点をしぼったのがよかったと思う。いい映画だったなぁ。
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