実感の無い殺人は心を壊す
数年前に比べてドローンは認知されてきたと思う。ボクが好きな旅番組でも、風景の撮影にドローンを利用しているシーンが増えた。
こうした新しい技術の大元は、軍事利用によってスタートすることが知られている。軍事用に開発されたものが、一般人に便利なものとして転用されているのが普通。だから先ほどのドローンも、当然ながら軍事用に開発された。
ただしそのシステムは通常のドローンの概念を超える。そしてとてつもなく恐ろしい。ドローンを使った戦争について、実話を元にして作られた映画を観た。
『ドローン・オブ・ウォー』(原題: Good Kill)という2014年のアメリカ映画。写真のイーサン・ホークが主演している。
イーサン・ホーク演じるトミー少佐は、優秀なパイロットだった。アフガニスタンの紛争では、戦闘機に乗って戦地で活躍した。だけどいまの彼が所属するのはラスベガスにあるアメリカ空軍基地。
その一角にある空調のきいたコンテナのなかには、衛星から受信したモニターが置かれ、様々な装置が配置されている。それは無人攻撃機をコントロールする部屋で、トミーたちは一万キロも離れたラスベガスでドローンを操縦して、アフガニスタンのタリバンと戦っていた。
ターゲットが指示され、それをミサイルで狙う。高度3000メートルの上空なので地上の人間には視認できない。だからいきなりミサイルが飛んできて殺されてしまう。逆の立場になったら、これほど恐ろしい兵器はない。だけど現実の出来事。
民間人を殺傷してはいけないという原則がある。だけどいきなり非戦闘員が飛び出してきたり、予測しない場所にいたりすることもある。だからターゲットと同時に殺してしまうこともあった。
さらにCIAからの命令は強烈。彼らはターゲットの抹殺のためなら民間人の犠牲も無視する。あえて記録に残さない攻撃を強要してくる。このあたりの現場の兵士の苦悩を思うと、やりきれない気持ちになった。
トミーは美しい妻、そして二人の子供と暮らしている。戦地に行っていたときに比べて、仕事が終われば妻子の顔を見て過ごせる。どれだけタリバンの人間を攻撃しても、自分が敵の攻撃によって被弾することはない。
だけどずっと戦闘機に乗っていたトミーは、実感のない殺人が続くことによって精神を病んでしまう。酒浸りになり、妻とも喧嘩が絶えない。大勢の人間を殺して自宅に戻っても、その愚痴を妻に話すことはできない。任務に関することは家族でも知られてはいけないから。
そんなイーサン・ホークの演技から、自分の心と家族が崩壊していくトミーの苦しみが痛いほど伝わってきた。無口で感情を表現しないというトミーの苦悩を、彼は見事に演じていたと思う。ラストシーンがとてもいい。
トミーは誰もいないときを狙い、義憤にかられてミサイルを発射する。それはあるアラブ人を殺すため。この映画を観た人は、おそらく彼の行動を容認したくなるはず。よくやった、とボクも拍手を送りたい気持ちになった。
そして空軍を去り、家出した妻と子供の元へ向かうシーンで終わる。楽しい気分になる映画じゃないけれど、現代の戦争がこうした無人兵器によって行われていることを痛感させられた。これが現代の戦争だということ。そのことを自覚するためにも、大勢の人に観て欲しいと感じる映画だった。
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