感情を隠す優しさと美しさ
新型コロナウイルスを警戒しているせいか、やたら感情的な人が多い。昨日もテレビを見て驚いた。列車内で女性が咳をしただけで、となりの車両に移動しろ、と激怒する男性。そしてそれをやめさせようとした男性が口論になっている動画。
気持ちはわかるけれど、ちょっとみんなおかしいよ。もう少し落ち着こう。
昨日もスーパーに着いたとたん、いつもとちがう空気に閉口した。平日の午前中だというのに、駐車場には入れない自動車が列を作っていた。店内には人があふれ、トイレットペーパー等の紙製品を中心に軒並みに売り切れの商品ばかり。特にカップラーメン等の保存食が激減していた。
レジに並んでちる人はどこかイライラしているし、店員さんの緊張も伝わってくる。その向こうでは、ベーカリーショップの店員さんが、普段はトレーに並べている商品を必死で袋詰めしていた。そうしなければ売れないんだろう。
日本人は言いたいことを表明しない民族だとして、外国の人に揶揄されることが多い。でも最近の若い人は自分の意見を堂々と述べるし、ネットの普及によってそういう機会が増えた。それゆえ炎上することも多いんだろう。
冷静になって意見を述べるのはいい。だけど感情的になるのは、ちょっとちがうと思う。うれしさや楽しさの感情をふりまくのはいい。見ているこちらも幸せな気分になれる。
だけど怒りや不安等のネガティブな感情を撒き散らしている人を見ると、ボクが昨日のブログで書いたように他人へ伝染していくだけ。いろいろと大変なのは事実だけれど、とにかく冷静になって協力していくしかないと思う。
感情を押し殺すことは、よくないと言われることが多い。たしかにそうだと思う。感情を無理に抑圧することで、心を病んでしまうこともあるだろう。
だけど自分の感情を隠すことで、他人に優しさを見せることもできる。そしてその行為は美しい。
そんな姿をリアルに観たい人に、おすすめの映画がある。これを観れば、感情を賢明になって隠す人物の優しさと美しさを感じ取れると思う。
『日の名残り』(原題:The Remains of the Day)という1993年のイギリス映画。カズオ・イシグロさんの小説を映画化した作品。
今日、久しぶりにこの映画を観たけれど、まさにいまのようなときにこそ観るべき映画だと思う。もちろん言うまでもなく原作は素晴らしい。本当に感動した。だけど映画だけの良さがある。
それは主演をしたアンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの演技が素晴らし過ぎるから。『羊たちの沈黙』のレクター博士でしかアンソニー・ホプキンスを知らない人は、絶対にこの映画を観たほうがいい。同じ俳優さんだとは思えないから。
以前のブログで書いたので、ストーリーには触れない。第二勢世界大戦が始まる前のイギリスが主な舞台。政治的な影響を持つ貴族の屋敷に仕えている執事と、女中頭の交流を描いた物語。
この執事は主人に使えるため、完全に自分の感情を抑えている。愛しているはずの女中頭にさえ、その想いを見せない。徹頭徹尾、執事としての品格を保つことに全身全霊をかけている。その根底にあるのは関わる人に対する優しさ。だから彼の所作は完璧で美しい。
一度だけ感情を爆発させるシーンがある。女中頭のケントンが、執事への当て付けで結婚することをほのめかす。彼女は引き止めて欲しいし、執事も同じ気持ちだったはず。だけどそんな感情を必死で抑えて、笑顔で祝福する。
だけどそのあとワインセラーで一人になったとき、うっかりワインのボトルを落とす。その瞬間だけ「くそっ!」と彼は叫び声をあげる。彼女を引き止めたいという切実な想いが、その一瞬にだけ爆発する。
本当に素敵な映画だから、気持ちが殺伐としている人はこの映画を観て落ち着こう。感情を爆発させないことの美しさを、少しは感じることができるはず。
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