変化に対応できる人、できない人
人間に限らず、動物は変化を恐れる。現状に慣れることで、その状態を必死で守ろうとする。
だけど人間が他の動物に比べて進化してきたのは、勇気を持って変化を受け入れてきたからだと思う。
変化を嫌うのは、既得権益を有している人ばかりじゃない。不思議なことに、いまが辛くて苦しいのに変わることを拒む人がいる。それは現状でも耐えがたいのに、さらに悪くなることを恐れるからだろう。
だけど変化への一歩を踏み出さないと、何も変えていくことができない。そんな勇気を持った3人の女性を語り手にした小説を読んだ。
『ヘルプ 心がつなぐストーリー』下巻 キャスリン・ストケット著という小説。上巻の感想については『アメリカ版『家政婦は見た!』という記事に書いているので参照を。
その3人とは、20代白人女性のスキーター、30代黒人女性のミニー、そして50代黒人女性のエイビリーン。1960年代のアメリカ南部において、黒人女性は家政婦として働くしかなかった。その家政婦は『ヘルプ』と呼ばれていた。
上巻では出版界での仕事を意図するスキーターが、ミニーとエイビリーンの協力で、彼女たちがヘルプとしてどのような生活をしているかを取材することが決まった。そのほとんどが黒人差別の実態を暴くもの。だから著者も登場人物も匿名で、かつこのインタビュー内容が、ミシシッピー州ジャクソンの出来事なのを知られてはいけない。
それがバレると、ミニーたちの命に関わるから。それほど人種間の軋轢はおぞましいことになっている。ところがニューヨークの出版社では、最低でも12人のインタビューがないと出版できないと明言する。
スキーターは絶望するけれど、ある事件によって大勢のヘルプが協力を申し出てきた。だけどその過程で、白人であるはずのスキーターは白人社会から孤立していく。その元凶はヒリーという親友。ヒリーは20代ながらその地域の白人女性を仕切っていた。そして強烈な差別主義者だった。
もしヒリーに本のことがバレたら、インタビューに答えたヘルプたちは職を失い、最悪の場合は殺されかねない。だけどスキーターたちは原稿を完成させる。そしてもしヒリーにバレたことを想定して、ミニーが原稿にある爆弾記事を仕込んだ。これがめちゃ笑ってしまうwww
そして本が出版され、ベストセラーになった。ところがジャクソンでは犯人探しが始まる。その先頭に立っているのはヒリー。だけどミニーが仕込んだ爆弾が見事に機能する。
人種差別の実態を扱った小説だけれども、それを主体にしつつ登場人物たちの変化が語られている。スキーターはヒリーや母との確執を抱えながらも、ジャクソンを出てニューヨークへ出ることを決める。
ミニーは本の出版をきっかけにして、DV夫から離れることを決意する。そしてヒリーによる冤罪を受けたエイビリーンも、メイドをクビになったことで新しい道を歩もうとする。その変化の原動力となったのは、彼女たちが作った本だった。
その本は人種差別の酷さを記しただけではない。白人女性のなかには、ヘルプに対して愛情深く接した人もいた。本にはその事実も書かれている。だからこそ大勢の人の心を動かし、新しい変化の波をこの街に発生させた。
だけど変化を拒む人たちもいた。その代表がヒリーだろう。人種分離が正しいことだと信じていて、時代の変化を受け入れることができない。変わろうとする主人公たちと、変われない人たちの対比が、ユーモアを交えながら完璧に描かれていた。そして感動の涙が止まらない作品だった。マジ泣きするよ。
この作品は映画化されているので、絶対に観ると決めた。近いうちにTSUTAYAに行こうと思う。
著者のあとがきも良かった。スキーターのモデルはもちろん著者。そしてミニーとエイビリーンは、彼女がジャクソンに暮らしていた当時のヘルプのキャラを分けたものらしい。それだけに愛情がこもっている。
この小説は世界的なベストセラーになって映画化された。だけど著者が原稿を完成させて出版社に持ち込んだけれど、どこからも拒否された。なんと60社以上の出版社から断られたらしい。
こんなこともあるんだね。最終的に出版を決意した会社が大儲けしたということ。ハリーポッターもそうだった。そういう意味でも、ボクにとって勇気をもらえる物語だった。
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