愛されない恐怖を克服した人
何をやっても他人に好評価を受け、常にトップを走り続ける人がいる。
その一方で、能力はあるのに他人に好かれず、二番手であり続ける人がいる。そんな不運な人が、予期せずトップに立ったとしたら?
まさにその通りの人生を生きた人を描いた伝記映画がある。
『LBJ ケネディの意志を継いだ男』(原題:LBJ)という2016年のアメリカ映画。その人物とはアメリカの第36代大統領を務めたリンドン・B・ジョンソン。1963年11月22日にジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されたことで、副大統領だったジョンソンが大統領に就任した。
ボクの知識はこの程度で、ジョンソン大統領についてあまり知らない。なんとなくあった知識は、ケネディ大統領が積極的に関わったベトナム戦争を、さらに悲惨な状況にしてしまったというマイナスイメージ。それはスティーブン・キングの小説からの受け売りだけれどwww
だけどジョンソン大統領は、実はすごいことを成し遂げている。ケネディ大統領が発案した公民権法を、彼が成立させて黒人の権利を守っている。ケネディは国民の信頼はあっても、議会からは嫌われていた。だから反対票が多くて公民権法を成立させることができなかった。
その難しい仕事を、ジョンソンはやってのけた。それも任期を過ぎて大統領選に出馬したときは、これまでにない最高数字を叩き出して大統領に選ばれている。ケネディへの同情票もあっただろうけれど、彼に実力がなければ当選することはなかったはず。
ジョンソンはテキサスの出身で南部の議員の代表でもあった。つまり彼は公民権にはどちらかといえば反対の立場だった。ケネディが大統領選に出馬したとき、彼も民主党の代表となれるように立候補している。だけど人気のあるケネディには勝てなかった。
二枚目でもなくカメラ写りも悪い。気難しいところもあるので、他人には彼のことが理解されない。ジョンソンは愛されない自分に嫌気がさし、愛されないことに恐怖を覚えてきた。だけど当選したケネディは南部の議員を味方につけるため、彼を副大統領にした。
つまりケネディと仲が良かったわけじゃない。特にケネディの弟である司法長官のロバートはジョンソンを嫌い、彼を徹底的に排除しようとした。ところがダラスで暗殺事件が起きる。ここからの逆転劇はとてつもない緊迫感とともに、想像を超える大波がジョンソンにやってきたことが映像から伝わってきた。
写真はケネディの死亡が確認された直後、エアフォースワンの中で大統領就任を宣誓するシーン。彼のとなりにいるのはケネディの妻のジャクリーン。本物の写真を見たけれど、この映画のシーンとまったく同じだった。
大統領選挙でホワイトハウスの人員が総替えになることはよく知られている。だけどこのような暗殺による場合でも、ホワイトハウスの職員は刷新される。つまりケネディファミリーはあっという間に追い出されてしまう。シビアな世界を見せられて、アメリカ人の合理性の高さを強く感じた。
だけどジョンソンは対立していたケネディの政策を継承する。なぜなら人種差別の時代が終わったことを実感していたから。だから仲間の南部議員を敵に回すことを覚悟で公民権法を成立させた。
それは彼が優れた政治家である証明だし、この英断によって国民の支持を得たんだろう。愛されない恐怖に怯え、常に二番手だった彼が大統領就任の演説をするシーンは、感動で涙があふれた。いい映画だったなぁ。
ジョンソン大統領を演じたウディ・ハレルソンの演技が最高だった。どちらかといえば悪役や脇役が多い彼にとって、ジョンソン大統領は他人だと思えないのかもしれないね。だからこそこの複雑な人物を演じ切れたんだと思う。
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