孤独が導いた愛のメロディ
人は自分にないものを追い求める。芸術というのは、その強い想いが作品となって表現されたものなんだろう。
それゆえ美しい絵を描く画家の心は、地獄のような苦悩にさいなまれているのかもしれない。
そして愛が溢れるメロディを奏でる音楽家の心は、耐えがたい孤独で満たされているのかもしれない。そんなことを感じさせる映画を観た。
『ロケットマン』という2019年のアメリカ映画。エルトン・ジョンの半生を描いた作品。ずっと気になっていたけれど、ようやく観ることができた。
『ボヘミアンラプソディ』というクイーンのフレディ・マーキューリーの人生を描いた映画がある。ボクの大好きな作品で、映画館でもDVDでも観ている。その映画の少しあとに公開されたこの作品は、そんな伝記映画のブームに乗ろうとしたような気配を感じていた。
だけどエルトン・ジョンの大ファンであり、過去に2度も来日公演に参加したボクとしては見逃せない。それで期待せずに観たけれど、本気でぶったまげた!
ボクとしては『ボヘミアンラプソディ』より秀作だと感じた。映画としての完成度からすると、ボクはこの『ロケットマン』に軍配をあげる。そして単なる伝記映画としてだけでなく、ミュージカル作品としても称賛を送るべき作品だった。
エルトン・ジョンは過去にアルコール依存症であり、コカイン中毒でもあった。まぁ、この時代のミュージシャンのあるあるだよね。だけど更生施設に入院することで、現在までの28年以上はお酒を完全に絶っている。
この映画はエルトン・ジョンが更生施設にやってくるシーンで始まる。そして自分の半生を語りながら、立ち直っていく姿を描いている。この映画のプロデューサーにエルトンも名前を連ねているので、ほぼ実話だと考えていいだろう。
エルトンは孤独だった。特に父親が彼に冷たく、自分は愛されてないと思い続けていた。映画でも悲しいシーンがある。「ハグして」と幼いエルトンが父親にねだると、「甘えるな」と拒否された。
エルトンが成功した姿を父に見せようと、新しい家庭を持った父を訪ねるシーンがある。そのとき彼のレコードにサインを求められる。心から喜んだエルトンは、『父へ』と書きかけてところで否定される。サインを欲しいのは父でなく、父の知人だった。さらに二人の兄弟を抱きしめている父の姿を見て、エルトンは打ちのめされてしまう。
彼が美しいメロディを生み出すのは、孤独だったからかもしれない。ゲイであることを当時はカミングアウトするのは無理だった。そんなことも影響しているんだろう。満たされない想いが、彼をお酒とドラッグに走らせたんだと思う。
ボクはそんな彼のセラピーシーンで号泣してしまった。幼いエルトンが彼に向かって「ハグして」とねだる。エルトンは少年の自分を思い切り抱きしめる。そうしてようやく依存症から立ち直る決意をする。この映画のクライマックスシーンだと思う。
エルトンは音楽の天才だった。一度耳にした曲は、すぐに演奏できた。そんな少年時代のエピソードも映画に出てくる。だけど彼は歌詞が書けない。そんな彼を50年以上も支えているのがバーニー・トービンという人物。エルトンの著名な曲のほどんとは、彼が作詞している。
この映画はそのバーニーとの友情物語でもある。いまだに健在で、エルトンのニューアルバムでもバーニーが作詞している。この写真のシーンはエルトンの代表曲である『 Your Song』が完成した瞬間のシーン。
バーニーが書いた詞に感動したエルトンは、わずか30分で素晴らしいメロディを生み出している。これも実話とのこと。やっぱり天才だよね。
ただエルトンの人生を追いかけるだけでなく、彼の代表曲をミュージカルとして散りばめることで、最高に素敵な作品に仕上がっている。近いうちに、絶対もう一度観るぞ〜〜!
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