絶望の暗闇を照らす小さな光
人間がとてつもない絶望に取り憑かれ、前も後ろも見えない暗闇で孤独を感じていたとしたら、その人は自ら命を絶ってしまうだろう。
だけどそんななかであっても、ほんの小さな光が見えたとしたら、もう少し生きてみようと思えるかもしれない。
その小さな光を、完璧に描いた映画を観た。
『ビューティフル・デイ』(原題: You Were Never Really Here)という2017年のアメリカ映画。
映画には饒舌な作品と、寡黙な作品がある。饒舌な作品は、ナレーションを連発してでも映画の世界を説明しようとする。でもこの映画は完璧に寡黙な作品。だからこの映画を観る人は、最初の30分くらいは全力で心の耳を働かせないと舞台状況が見えてこない。
だけどそれゆえ、後半における主人公の行動に強く共感できる。芸術作品として、そして娯楽作品としても、見逃すべきでない素晴らしい映画だと思った。
主人公のジョーは退役軍人で、戦争によるPTSDを抱えていて、鎮痛剤中毒でもある。そのせいでFBIの仕事も退職していた。常に死ぬことばかり考えているけれど、老母と二人暮らしなので自殺するわけには行かない。
ジョーの仕事は殺し屋。だけど行方不明になった子供を救うことを専任としていた。その救出を邪魔する人間を殺すだけ。なぜならFBI時代に人身売買されている女性たちを救えなかったトラウマを抱えていたから。
ある日、上院議員から家出したニーナという少女の救出を依頼される。ニーナは家出してから売春組織に囚われ、少女買春の餌食となっていた。ジョーは売春の巣窟に潜入して、ニーナを捉えていた連中を皆殺しにして彼女を助ける。
ところが父親の上院議員と待ち合わせをしていたとき、彼がビルから落ちて死んだことを知る。そのうえ、落ち合う場所に警官が押し寄せて、ニーナを奪われてしまう。それはニーナをお気に入りとしていた知事の陰謀。汚職警官たちや殺し屋が暗躍していた。
ニーナを取り返そうとするジョーに対して、知事たちは容赦ない。ジョーの雇い主や連絡役だけでなく、彼の老母まで殺してしまう。怒り狂ったジョーは敵のアジトに乗り込み、ニーナを救い出すという物語。
この映画のラストシーンが最高。この写真のように、ジョーとニーナはダイナーにいた。でも二人には帰る場所がない。この先、どうしていいのかわからない。ジョーは再び死神に取り憑かれて、自殺することを考える。だけどその暗闇を照らした小さな光がニーナだった。
父親が殺されたニーナには誰もいない。この少女を見捨てられない。ジョーがそう思ったとき、彼女がポツリと言う。
「今日はいい天気ね」
この映画の邦題は、このセリフから来ている。ナイスネーミングだね!
「うん、いい天気だ」とうなずいたジョーは、ストローで飲みかけのジュースを飲み干す。そして二人でダイナーを出ていく。なんて素敵なシーンなんだろう。絶望の暗闇から、明るい朝の光へ向かっていく二人の姿が印象的だった。
ジョーを演じたのが、今年のアカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックス。彼の素晴らしい演技を最初から最後まで堪能できる内容だった。すごい俳優さんだよね。亡くなった兄のリヴァー・フェニックスも天才だと思ったけれど、弟もマジですごい。やっぱり『ジョーカー』を観なくては!
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