SF世界の根底にあるもの
ボクの心に残っている、とある作家の言葉がある。多分、山本周五郎さんだったと思う(間違ってたらゴメンなさい)
『時代小説というのは、時代背景を使って『いま』を書くこと』という内容だった。
たとえば江戸時代の物語を書くとしても、その時代の人のことを書くのではないということ。登場人物たちが伝えようとしているのは、現代人の心に響くものでないと意味がない。小説の本質をついた言葉だと思う。
これは映画でも同じで、その時代特有の事情を描写しつつも、いまの人がどう感じるかが大切だと思う。
そして時代小説だけでなく、未来を描いたSFでも同じ。そのことを再確認した本を読んだ。
『さよならの儀式』宮部みゆき 著という本。宮部さんのSF作品を集めた短編集。ちょうどいまボクも短編を書いているところなので、とても勉強になった。
宮部さんの作品は、あらゆる分野に及ぶ。ミステリーがよく知られているけれど、ファンタジー、オカルト、ホラー、時代小説、そしてSF作品も書かれている。
だけどそれらの作品に共通しているのは、『いま』の社会問題や著者の問題意識が投影されているということ。今回のSF短編集も、物語の発想は完全にSFなんだけれど、それらは物語を構成するための材料でしかない。設定以上に大切なことが、それぞれの物語に織り込まれている。
まだ昨年に出版されたばかりの本なので、ネタバレはやめておく。簡単な内容だけ紹介しておこう。
『母の法律』
マザー法という、実の親からの虐待児を保護する里親システムの物語、テーマとなっているのは親と子の絆。
『戦闘員』
意思を持った防犯カメラの物語。このカメラを見たものは、命を奪われる。人間の孤独をテーマにした物語。
『わたしとワタシ』
40代の女性の前に、30年前の女子高生だった自分がタイムスリップする物語。過去の後悔と未来への不安がテーマ。
『さよならの儀式』
廃棄されるロボットとの別れを描いた物語。かなり切ない。これも社会になじめない孤独が描かれている。
『星に願いを』
宇宙人が人間に乗り移ってしまう物語。人間の内面の醜さをテーマにした作品。
『聖痕』
SNSでの嘘が大勢の人を巻き込んでいく物語。親による虐待とその復讐がテーマになっている。
『海神の裔』
人造人間の物語。本当の人間らしさとは何か、を読者に問いかける作品。
『保安官の明日』
ボクはこれが一番好き。隔絶されたある世界で、何度も人生のシミュレーションを行うという物語。ある凶悪犯罪を起こした男が、どうすればその罪を犯さない人生を歩めるかを検証するという設定。人間は生まれつき悪のなのか、それとも環境に左右されるのか、ということがテーマになっている。
ざっと紹介したけれど、設定はSFであっても、その根底にあるのが『いま』だということがわかると思う。どの物語も読み応えがあって、ドキリとしたり、胸が痛くなったり、感動したりする。何度も読みたくなる作品ばかりだった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。