模倣を個性に変容させるもの
小説でも映画でも、すべては模倣から始まる。それは音楽や絵画でも同じ。
ある作品に感動することで、そこへ近づこうとしてモノマネからスタートする。どれほど個性的で独自性のある作品でも、その根底には何かを真似たという要素が必ず存在する。意識的か無意識的かは別にして。
だから創作者にとって大切なのは、模倣を個性に変容させることだと思う。劇的な化学変化を誘引するための『触媒』を見つけた人が、新しい個性を生み出しているのだろう。だからそんな自分だけの『触媒』をボクも常に探している。
そのためにはより多くの作品に触れることが欠かせない。そしてそれはお手本としてだけでなく、反面教師的な作品に出会うことも必要。ある映画で『触媒』を見つけ損ねた残念な結果を目撃してしまった。
『ワイルド・ストーム』（原題：The Hurricane Heist）という2018年のアメリカ映画。ボクはメチャ楽しく観た作品なんだけれど、先ほど書いたように過去作品の模倣で終わってしまっている。それだけに残念だった。
簡単に書くと、『ツイスター』というハリケーンのパニック映画と、『ダイハード』というアクション映画を組み合わせたような内容。シチュエーションもそれぞれによく似ている。
主人公は３人。写真のウィルとブリーズの兄弟がそのうちの２人。幼いころに巨大なハリケーンに襲われ、目の前で父親を亡くしている。兄は修理工として働いていたけれど、弟は父親の死を経験して気象学者になっている。そして迫りくる巨大なハリケーンを警告する。まさに『ツイスター』のパターンと同じ。
もう１人の主人公はケーシーという財務省の女性職員。舞台となった街には、古くなった紙幣の断裁場がある。ハリケーンが迫るその街に、なんと６億ドルの古い紙幣が運び込まれる。シュレッターにかける前に、あるテロリスト集団がその紙幣を奪おうとした。ハッキングを駆使して財務省の施設に進入するシーンなんて、まさに『ダイハード』の１作目を彷彿とさせる。
ウィルとブリーズの兄弟、そしてケーシーの３人が巨大ハリケーンに襲われつつ、テロリストの野望を防ごうとする物語。新しい作品なのでネタバレはここまでにしておこう。
模倣作品としてはかなり上出来。ハリケーンのCGはかなりすごいし、テロリストたちの手口も鮮やか。だから観ても損はない作品だと思う。
ただし最初に書いたように、それらが模倣で終わっている。ハリケーンと強盗という２つの要素を必死でつなげようとしているけれど、どちらの模倣も完璧であることにエネルギーが注がれていて、両者に化学変化が起きていなかった。完全に『触媒』を見失っている。それが本当に残念。
でもケーシーを演じたマギー・グレイスは、アクション女優としての輝きを見せていた。『96時間』シリーズでリーアム・ニーソンの娘役を熱演していたときも、とてもいい演技だった印象が残っている。久しぶりに見たけれど、ますますいい雰囲気の女優さんになったよなぁ。
とにかく模倣もやり過ぎは禁物ということだろう。そういう意味では、とてもいい勉強になった作品だった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント （0件）
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする