完璧に騙される気持ちよさ
人間は騙されたと思うと、普通は怒り狂う。温和な人でも、騙された自分に腹が立つだろう。
だけどそれがフィクションの世界だと妙に心地いい。作者の仕掛けに完璧にはまってしまうことで、思わず感動して拍手を送りたくなる。
今日観た映画が、まさにそんな作品だった。
『情婦』(原題: Witness for the Prosecution)という1957年のアメリカ映画。タイトルで二の足を踏みそうな作品。だけどこれはこの邦題をつけた人の大失敗。原題は『検察の目撃者』だから、せめて『検察の証人』くらいのタイトルにすれば良かったのに。ろくに映画を観ずに邦題をつけたとしか思えない。
原作がアガサ・クリスティなので、それだけでもストーリーに期待してしまう。でも想像していたより面白かったし、俳優たちの素晴らしい演技に脱帽するしかなかった。そして最後の最後まで、ボクは完全に騙されてしまった〜www
古い映画なので、ストーリーを書いてもいいだろう。だけどもし観たいと思う人がいたら申し訳ないので、ネタバレはやめておく。だって思いっきり騙されて快感を覚えることができるのは、最初の1回目だけだからね。
主人公は高齢の弁護士であるウィルフリッド。刑事事件を専門に扱っていて、誰もが口をそろえて最高だと言い切る優秀な人物。だけど心臓病を患っていて、退院してきたばかり。医者には養生するように言われているけれど、ある事件を知って自ら弁護することを決める。
レナードという男が助けを求めてきた。親しくなった老婦人が殺された。自分は無実なのに情況証拠が彼を犯人だと言っている。このままでは逮捕されるので助けてほしいという依頼だった。誠実で純朴な彼の態度と言葉を信用したウィルフリッドは、必死になって無罪の証拠を集めようとする。
鍵となるのは妻であるクリスチーネの証言。彼女が夫の帰宅した時間を証言してくれたら、どうにかアリバイが成立する。ただし裁判において、愛する妻の証言は重視されない。なぜなら夫を助けるために嘘をつくかもしれないから。それでウィルフリッドは、妻を証人から外して弁護の作戦を立てる。
検察が次々に状況証拠を提出したけれど、ウィルフリッドは見事な展開でそれらを否定していく。このままレナードの無罪が確定しそうな気配になったとき、検察が妻のクリスチーネを証人として連れ出す。
そして衝撃的なことを法廷で証明する。レナードと妻が出会ったのは1945年のドイツ。兵士として従軍していたレナードはクリスチーネに一目惚れする。そして結婚して彼女をアメリカに連れ帰った。
ところが彼女はドイツに夫がいた。だけど生活に困り、ドイツを抜けられるのなら偽装結婚するしかないと判断した。だから夫のレナードを愛していないし、自分が重婚の罪を犯していることを証言台で告白する。
それだけでなく夫の帰宅が老婦人を殺したあとであり、レナードが人を殺したと言ったことまで証言してしまう。実の妻でないなら、彼女の証言は重要視される。つまりこのままでは有罪になり、レナードは死刑になってしまう。
ところが裁判の最終日の前日、ある人物から連絡がある。そのことでウィルフリッドは翌日の裁判で大逆転劇をやってのける。このあたりの裁判の成り行きは、手に汗握る展開で時間を忘れてしまう。
ところがこの大逆劇は、作者が仕掛けた大どんでん返しの始まりに過ぎなかった。そしてボクは、ラストになって完全に騙されていたことに気がつく。
真相が知りたい人は、この映画を観てほしい。見どころはウィルフリッドを演じたチャールズ・ロートンと、クリスチーネを演じたマレーネ・ディートリヒの素晴らしい演技。本当に最高の映画だった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。