完璧なシリーズ最高作
シリーズものの映画や小説は、少しずつ尻つぼみになって終わる場合が多い。第1作で高評価を得たことで続編を望む声が増えるけれど、それに応えるのが難しいということだろうね。
だけど続編になればなるほど、面白くなっていく作品もある。いまボクがハマっっているシリーズは、どうやら版を重ねるごとに面白くなるタイプらしい。
『特捜部Q 〜カルテ番号64〜』ユッシ・エーズラ・オールスン著という小説。ボクがこことのところハマっているデンマークのベストセラー小説である『特捜部Q』シリーズ。
これまで読んだ作品は、
『特捜部Q―檻の中の女―』
『特捜部Q―キジ殺し―』
『特捜部Q―Pからのメッセージ―』の3冊。
今回の作品は第4作目になる。いまのところ出版されているのは第7作まであり、著者のインタビューによるとこのシリーズは第10作で終わるとのこと。だからまだまだ楽しめる。
特捜部Qは未解決事件を扱う部署。カールという刑事、助手のアサド、そして秘書のローセの3人が過去の事件を解決していく物語。最初に書いたように、これまで読んだ4作品で、今回がまちがいなくシリーズ最高作だと言い切れる。ラストのオチでは、思わず大きなうなり声をあげてしまいそうだった。
今回の事件は、著者もかなり思い入れがあるとのこと。なぜなら実際に存在していた施設をモデルにしていたから。これが信じがたい人権無視の施設だった。
1921年から1962年にかけて、デンマークのスプロー島に女性収容施設があった。表向きは知的障害がある女性を収容していたけれど、実態はかなりちがう。いわゆる売春婦のような女性や、普通の人でも望まれない子供を産んだ女性をその施設に閉じ込めていた。なかには貧しいがゆえに、ちょっとした軽犯罪を犯しただけの女性もいた。
まるで刑務所のようなところで、簡単に出ることはできない。そのうえ更生が認められないと判断されると、この施設の女性が子孫を残さないように強制的に不妊手術を行なっていたそう。ふしだらと勝手に決めつけ、それも本人の了解なしに。
この事実を知った著者が、どうしても小説に書かなければという使命を感じた。それでこのシリーズで小説の舞台として取り上げている。物語はカールたちが、二十年以上前の失踪事件を調べるところからスタートする。
主人公はニーデという女性。この施設に収容されたことで、子供の産めない身体にされてしまった。それでも施設を出たあと、素晴らしい里親に出会ったことで人生をやり直す。そし大金持ちの男性と結婚する。ところが収容所時代の人間にばったりあったことで、夫に過去をバラされてしまう。
それで口論になったことで、夫婦は交通事故に巻き込まれる。そして夫は死んでしまう。せっかく自分の人生が軌道に乗っていたのに、過去の亡霊によって人生を再び無茶苦茶にされた。それでニーデは自分をそこまで追いやった人間に復讐する。つまり二十年前の失踪者は、彼女が殺した人間たちだった。
ただどうしても殺せなかった男がいる。クアト・ヴァズという老医師で、ニーデをレイプしたうえ、不妊手術を行なった男。このときのニーデのカルテが64番だった。物語に進行にともなって、ニーデの犯行とクアトの非道な行いが明らかになっていく。
とにかくいつもの通りに複雑で込み入った物語なので、簡単にあらすじ を書けないという内容。読者としては老人になったニーデが、クアトに復讐をするんだろうという展開になってくると信じている。
クアトによってアサドは死にかけ、カールにも危機が迫る。ところがラストでクアトを殺したのは、まったく予想外の人物だった。もうこのオチに本気で驚いたし、最初に書いたように大きな声をあげそうになった。
これは小説でしかできない手法。常に3人称で語られることで、誰の『視点』なのか錯覚するように構成されている。この驚きは読んだ人しかわからないと思うので、ネタバレはしないでおこう。
そして謎の助手であるアサドのことも少しずつわかってきたし、秘書のローセも今回は現場で大活躍した。さて、次の第5作目が気になるところ。近いうちに読んでみようと思う。
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