胸に迫りくる自由の渇望
物語にリアリティを感じても、それが一度きりだと、心のどこかでフィクションであることを自覚している。
だけどシリーズ物になると登場人物たちのキャラに深く関わっていくことになり、現実に存在している人のような錯覚を覚える。シリーズ5作目の作品を読了したことで、主人公たちはボクにとって『生きて』いる存在となってしまった。
『特捜部Q―知りすぎたマルコ―』ユッシ・エーズラ・オールスン著という小説。世界的なベストセラーとなっている『特捜部Q』シリーズの作品。念のため、これまでの作品を紹介しておこう。
『特捜部Q―檻の中の女―』
『特捜部Q―キジ殺し―』
『特捜部Q―Pからのメッセージ―』
『特捜部Q―カルテ番号64―』
という順に続く。著者は第10作までシリーズを続ける予定で、日本で邦訳されているのは第7作まで。だからまだまだ読めるwww
特捜部Qは未解決事件を扱う部署。主人公はカールという刑事で、アラブ人のアサドという謎が多い助手と事件を解決していく。第2作からローセという女性の秘書が登場し、今回の作品では刑事として現場にも出るようになった。アサドも真っ青になるような、素晴らしい能力を発揮する。
そして今回からゴードンという若いスタッフも増えた。上司からのお目付役として配属されたけれど、すっかりカールに洗脳されて、メンバーの一員として活躍しそうな気配を見せている。今回に関しては足を引っ張ってばかりだけれど。
いつもそうなんだけど、今回の物語もやたら込み入っている。そこがこの小説の魅力だろう。とにかく最後まで読まないと、いくつもどんでん返しが仕掛けてあるので真相がわからない。
今回はデンマーク政府が行なっているODA(政府開発援助)が事件のきっかけになっている。外務省の役人と銀行家がつるむことで、ODAの資金を横領していた。それがバレそうになったことで、未解決の殺人事件が起きたという設定。
それに関わってくるのがマルコという少年。マルコは少年少女にスリ等の犯罪をさせている犯罪集団に属していた。その一族に生まれたことで、逃げられない運命だった。デンマークに不法移民として入国しているため、犯罪を辞めたいと思っても警察に出頭できない。そんなことをすれば、組織に殺されてしまうから。
だけど我慢できなくなったマルコは、ついに逃亡を決意する。命からがら逃げたとき、埋められていた死体を発見してしまう。それがODAがらみで殺された人物で、殺したのは自分が所属していた組織のボス。
その秘密を知ってしまったことで、マルコは命を狙われる。その組織だけでなく、外務省や銀行で横領に関わっていた連中が殺し屋をマルコに差し向ける。誰が誰の命令によって動いているのかわからないまま、マルコは逃亡を続けるという物語。
そこへカールたちが関係してくることで、事件解決のために特捜部Qが活躍する。今回もページを繰る手を止められないほど、最後まで興奮が続く内応だった。このシリーズは、本気でハマってしまうなぁ。
今回の作品において最高だったのは、やっぱりマルコという少年のキャラ。頭が良くて、勇気も行動力もある。だからつい彼を応援してしまう。そしてそんな想いはカールたちも同じで、マルコが抱えている自由への渇望を強く感じたんだと思う。
法に触れることを覚悟したカールたちの決断によって、マルコはラストで自由を手にすることができる。こんなことを平然とやってのけるから、特捜部Qのメンバーは素敵なんだよなぁ。さて、第6作はどんな事件が待っているんだろう?
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