人生の物語は推敲できないよね
小説を書くことの最大の楽しみは、推敲することにある。初稿の物語は未完成で不完全なところばかり。だから不備を見つけることで、新しい物語に仕上げていく。
作家によっては書き直すことを嫌がる人もいるそう。でもボクは書き直しが大好き。一度完成させた物語を改稿するのも楽しい。なぜなら時間を巻き戻して、もう一度新しい物語を再構成できるから。
だけど自分の人生の物語は推敲できない。起きた事実を変えることは無理。結果を受け入れていくしかない。だけどもしそれが可能だとしたら?
そのことをテーマにした、ボクの大好きな映画がある。
『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(原題:About Time)という2013年のイギリス映画。過去にもこの映画の感想をブログで書いたことがある。久しぶりに観たけれど、やっぱり素敵な映画だった。もし一度も観たことがない人がいたら、絶対に観たほうがいい。
主人公のティムは21歳になったとき、父からこの家系の秘密を教えられる。男子限定で、この家の人間はタイムトラベルができる。ただし自分に関する過去にしか行けない。最初は疑うティムだけれど、すぐにそれが事実だと知る。
恋愛運がなかったティムにとって、この能力ほど便利なものはない。何度失敗しても、好きな異性へのアタックがやり直せるから。結果としてその能力を駆使することで、メアリーという人生の伴侶をゲットする。
この映画の前半から後半にかけて、ティムとメアリーの物語が中心になっている。映画のポスターも二人の結婚式のシーンなので、どうしても二人のラブストーリーとしてこの映画を観てしまう。だけどそれは目くらましに過ぎない。
この映画の本質的なテーマは『父と息子』の関係。人生をどのように生きるべきかについて、写真の父と子が映画を観ている人に問いかけてくる。特に父親役を演じたビル・ナイの演技は素晴らしい。彼なしには成立しない作品だと思う。
ティムはいつでも過去に戻れるわけだから、たとえ父が亡くなっても会える。だけどこのタイムトラベルには、ある法則がある。その法則が適用されることで、父との永遠の別れがラストに用意されていた。これはマジで泣くよ。そしてこのラストシーンを見れば、この映画が単なるラブストーリーじゃないことがわかるはず。
父の死後、ティムは愛する妻と3人の子供と暮らしながら、本当に大切なことに気づいていく。最初彼はタイムトラベルを使うことで、人生を推敲していた。人間は生きていると、辛いことばかりのように感じる日がある。
そこでティムは同じ1日を追体験する。それは小説を推敲するのと同じ。その結果ティムは、まったく同じ出来事でも視点を変えることで幸せだと感じられることに気がつく。自分の気持ち次第で、人生は楽しくも苦しくもなる。
そのことに気づいたティムは、やがてタイムトラベルをやらなくなる。毎日を『今日が最後』だと思って生きることで、どんな経験も貴重でかけがえのないものだと感じられるから。それは父でさえ気づかなかった、タイムトラベルにおける真の効用だった。
何度観ても感動するし、新しい発見のある作品。イギリス映画の良さって、こういうところにあるんだろうな。
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