映画は歴史の目撃者
映画の最大の目的が娯楽にあることはまちがない。冒険アドベンチャー作品は、その目的に合致した典型的なジャンルだろう。
恋愛映画、SF、ホラー等のジャンルも、楽しんだりドキドキすることに映画の醍醐味がある。だけど映画にはもうひとつ大切な役割があると思っている。
それは歴史の目撃者たること。
ボクの大好きな作品に『アルゴ』という映画がある。イラン革命のとき、アメリカ大使館が占拠された。その際、逃げ出した外交官がカナダ大使の自宅にかくまわれていた。その外交官をCIA工作員が救いに行くという物語。
アメリカ大使館が占拠されたことは知っていたけれど、こうしたことが起きているのは知らなかった。なぜなら近年までアメリカ政府が隠していたから。カナダ政府による救出劇ということで、CIAの関与を公にしていなかった。だからこの映画がなければ、ボクは歴史にそんな事実があったことを知らないままだった。
そしてその『アルゴ』と同じく、真相が公にされていなかった事実を映画化した作品がある。日本未公開作品なので、この事実を知っている人は少ないと思う。多くの日本人が、この映画を通じてこの事実を知ってほしいと感じる作品だった。
『13時間 ベンガジの秘密の兵士』(原題: 13 Hours: The Secret Soldiers of Benghazi)という2016年のアメリカ映画。
2012年0月11日にシリアのベンガジで起きた、アメリカ在外公館襲撃事件を扱った作品。主演のジャックを、ボクが最近注目しているジョン・クラシンスキーが演じている。
ジャックは元シールズという特殊部隊の兵士で、友人のロンに誘われてシリアのベンガジにやってきた。内戦によってほとんどの国が国外へ撤退している。アメリカも表向きには撤退していた。ところがCIAが秘密基地を保持したままだった。
その基地をアメリカ軍に警護してもらうことはできない。そこでCIAが独自に雇っているのが民間軍議請負業者であるGRAという組織。といっても全員が特殊部隊にいた精鋭ばかり。それでジョンもCIAの警護の任務に就く。
その時期、シリアではアメリカで公開された映画でアラーが馬鹿にされたということで、暴動が起きていた。CIAはその暴動を主導している対抗組織に武器等を供与しているので、アメリカの施設を警備させていた。そんなときに限ってアメリカ大使がベンガジを公式訪問した。
極秘裏に訪問するつもりだったのにマスコミが殺到。アメリカ大使が近くにいるということで、暴徒たちは領事館の施設を襲った。GRAのメンバーは大使を救いに行こうとするが、CIAの現地チーフが拒否。なぜならCIAの秘密基地の存在を知られてはいけないから。
GRAのジャックたちは命令を無視して大使を救いに行くが、間に合わずにアメリカ大使は殺されてしまう。さらに武装した暴徒はCIAの秘密基地に襲い掛かった。敵兵は200人もいるのに守るGRAのメンバーはたった6人。そのうえ秘密組織なので、軍隊の援助はない。
13時間にも及ぶ死闘を耐え抜き、この6人はCIA職員を無事に国外へ脱出させる。その事実を圧倒的な迫力で描いた素晴らしい作品だった。
こんな事件があったことも知らなかったけれど、それ以上に恐ろしいことがある。アメリカという国家が、常に外国の内戦に関与しているということ。結果としてGRAのメンバーたちも、アメリカ人を守るために大勢のシリア人を殺さなければいけなかった。
無事にCIAの基地を脱出して、大使の遺体とともに帰国するジャック。そのとき彼は妻と娘たちに泣きながら、「今から帰る」と伝える。そのときのジョン・クラシンスキーの演技が素晴らしい。そして同時に、殺されたシリア人の映像がジャックに重ね合わせられる。
まさに歴史の目撃者、というエンディングだった。エンドロールで流れる本人たちの写真が、どこか誇らしげで、同時に切なくて悲しかった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。
コメント (0件)
現在、この記事へのトラックバックは受け付けていません。
コメントする