トラウマに向き合う強烈な苦痛
人格を分離してしまうほどのトラウマに向き合うとしたら、一歩間違えればその人物を殺してしまうだろう。だけどそのまま逃げ続けても苦しみは続く。
そんな強烈なトラウマに向き合うことを余儀なくされた女性の物語に感動した。
『特捜部Q―自撮りする女たち―』ユッシ・エーズラ・オールスン著という小説。ずっと追っかけをしている『特捜部Q』シリーズの第7弾。ちなみに過去のタイトルだけ振り返っておこう。
『特捜部Q―檻の中の女―』
『特捜部Q―キジ殺し―』
『特捜部Q―Pからのメッセージ―』
『特捜部Q―カルテ番号64―』
『特捜部Q―知りすぎたマルコ―』
『特捜部Q―吊された少女―』
これに続く第7弾が今回読了した作品。ちなみに今年の7月に第8弾の邦訳が出版された。すでに図書館で予約待ち中。著者は第10弾まで予定しているとのことなので、いよいよこのシリーズも終わりが近づいてきた。
今回もいつもと同じく複雑な構成で、簡単にあらすじ を書けないほど込み入っている。単行本の2段書きで600ページ近くあるから、1日2時間読んでも4〜5日はかかるという大作。
今回もデンマークの時事問題が取り上げられていた。特捜部Qは迷宮入りした事件を追う部署。ただし今回の作品で連続殺人を犯すのは現在の女性。ソーシャルワーカーの女性が、働きもせずに生活保護を求めて自他楽な生活を送っている若い女性をターゲットにする。メインの3人の女性だけでなく、このソーシャルワーカーによって5人の若い女性が殺される。
過去の殺人に関係してくるのは、殺された3人の女性のひとり。デニスと両親、さらに祖母が過去の殺人に関与してくる。だけど今回の事件は、どちらかといえば物語を盛り上げる引き立て役のような雰囲気だった。
メインとなるのは特捜部Qのメンバーであるローセという女性秘書。特捜部Qは刑事のカール、アラブ人のアサドを中心にして事件を解決していく。ローセも最初は秘書役に徹していたけれど、警察学校で訓練を受けている。それゆえ前回あたりから捜査に参加するようになった。さらに前回からゴードンという若い男性もチームに加わっている。
そのローセは心に病を抱えている。いわゆる多重人格者で、ストレスがかかると3人もいる彼女の妹たちの人格になってしまう。そして前回の事件の捜査過程で、ローセは人格分離を起こす要因となった出来事に直面する。だから今回の作品では、精神崩壊寸前の状況で登場してきた。
それは父の死。ローセの父は長女の彼女だけを徹底的に支配した。言葉の暴力で彼女の人生をめちゃくちゃにしてきた。妹たちを守るため、ローセはその全てを受け入れてきた。その結果、彼女は人格分離を起こしてしまう。その暴力がどれほどひどいものか、今回の作品で明らかになる。
そしてローセの精神が決定的に破壊されたのは、工場で父の死を目撃したから。警察が学校に入る前、ローセは父と同じ工場で働いていた。それは常に彼女を支配しようとする父親の強制だった。
その父の事故死が、実は殺人だったとわかる。ローセは父の死に自分が関わってたのではないかと恐れ、強烈なトラウマを抱えることになった。今回の作品では、カールたちが事件を解決しつつ。ローセが経験したことの真実を究明する。そして彼女のトラウマを解消するという物語がメインとなっていた。
このシリーズが大好きで追っかけているけれど、今回の作品はボクにとってシリーズ最高作だと思う。ローセを助けようとするチームの仲間たちの献身的な態度に心打たれた。きっと次回作から、ローセは無事に立ち直っているだろうと思う。
となると次はアサドだろう、彼ほど謎の多いキャラはない。おそらくシリアの内戦に関係している。きっと次回作では、アサドの秘密について解き明かされていくような気がする。だって第8弾の副題が、『アサドの祈り』だからね。図書館から連絡が来るのを楽しみにしている。
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