心の痛みは突き抜けのパワー
新しいことを始めるのは、思っているよりもパワーが必要になる。ましてやそれが有意味な形を取るまでに完成度を上げようとするなら、ロケットが地球の大気圏を突破するようなエネルギーが欠かせない。
そのパワーをイメージすると、一般的にははポジティブなものが頭に浮かぶ。モチベーションとかやる気という言葉に象徴されるように、前向きなエネルギーによってもたらされるような気がする。ところがこれがちがうんだよね。
たとえば小説を書くという行為で言えば、もっとも有効的なエネルギーは負のパワーが持っている。それは成功している人への嫉妬だったり、過去に落選した悔しさだったり、作品をけなされた怒りという、ネガティブな感情のほうが圧倒的に爆発力が高い。
これはボクも実感としてわかる。常にそういうものを抱えて小説を書いているから。いまが絶頂で不満も不安もなかったら、小説を書くなんて面倒なことはしない。うまくいかない出来事や芳しくない体調に直面しつつ、必死になって物語を綴ることで自分の負のエネルギーに折り合いをつけようとしている。
ある映画を観ていて、やはりクリエイターは同じことを感じているんだと納得した。
『ハッピーエンドが書けるまで』(原題:Stuck in Love)という2012年のアメリカ映画。日本での公開は2015年らしい。写真でわかるとおり、3組の恋愛を描いた作品。それだけでなく家族の絆にも深く切り込んでいて、とても素晴らしい映画だった。
ビルはそこそこ売れっ子の作家。だけど妻のエリカが男を作って離婚。3年も経つのにいつか妻が帰ってきてくれると信じて待っている。そしてそれを確かめるために、ストーカーのように妻の再婚家庭をのぞきにいくほど心が病んでいる。それゆえ妻と離婚してから小説が書けなくなった。
ビルの長女は19歳のサマンサ。父の影響を受けて彼女も作家としでデビューする。彼女の執筆の原動力となったのは母との確執。母の浮気現場に遭遇して以来、かなり異質な恋愛感情を持つようになった。母への怒りが彼女の心の痛みとなり、作品を創作するエネルギーとなっている。
ビルの長男のラスティも小説家志望。でも姉に先を越されて嫉妬する。でも最終的に彼を執筆に掻き立てたのは、ケイトという同級生との恋愛と失恋だった。その心の傷によって、大ファンであるスティーブン・キングに推薦してもらって作家としてデビューする。つまり姉弟そろって、心の痛みを執筆のエネルギーにしていたということ。
物語の結論から言えば、ビルとエリカの夫婦は寄りを戻す。なぜビルが妻を待っていたかは、この物語のキーとなる部分なので内緒にしておこう。
そして母との確執で異性への愛を信じられなくなったサマンサは、ルイスという男性と出会うことで変わっていく。そして父が母を待っていた理由を知ることで、ようやく母と和解する。
ラスティの最高の見せ場は、スティーブン・キングから電話がかかってくるシーン。なんとスティーブン・キング本人が声で出演している。ボクは個人的にうらやましかったwww
サマンサを演じたリリー・コリンズは、『シャドウハンター」で主役をしていたときよりずっと良かった。『シャドウハンター』の演技がイマイチだったのは、もしかしたら脚本のマズさかもしれないね。
そしてエリカを演じたジェニファー・コネリーは相変わらず美しくて、彼女にピッタリの役だった。ジェニファー・コネリーとリリー・コリンズは雰囲気がよく似ているので、本当の親子にように見えたなぁ。心温まるとても素敵な映画だった。
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