犯人が霞む警察の内部抗争
小説は主人公を困らせるのが必須なので、つい刑事事件を使うことが多くなる。だからボクも警察が登場するシーンを書くことが多く、そのときに困るのが警察組織の構造や捜査手順、あるいは上司や部下の呼称。それゆえ関連書籍を読んで勉強したこともある。
だけど内部の人間でないとわからないことは多い。そうなると警察官が主人公になる小説の場合、かなりのことを調べる必要がある。警察官経験のあることがベストだけれど、なかなかそうはいかないしね。
ところがある小説を読んでかなり驚いた。警察官が主人公であるだけでなく、その内部のことがこと細かく語られている。もしかして著者は警察官だった? そう思って調べたけれどちがう。ということはかなりの勉強をされたんだと思う。とにかくめちゃめちゃ面白い小説だった。
『血の轍』相場英雄 著という小説。
主人公は兎沢という警視庁の刑事部に属する捜査一課の刑事。もう一人の主人公が志水という警視庁公安部の刑事。この二人は所轄署時代の同僚刑事で、志水が先輩刑事として兎沢を指導していた。仲の良い二人だったけれど、ある出来事によって二人は完全に決裂する。
志水はあることでミスを犯し謹慎処分を受ける。このままでは刑事として出世が望めないと思ったとき、ひそかに公安部から誘いを受ける。そして公安部の刑事として特訓を受ける。
一方兎沢は刑事として順調にキャリアを積んでいたが、幼い娘が白血病になってしまう。だけどいい医師が見つかり、骨髄移植の道が見えた。ところが公安部が志水の腕試しということで、どうでもいいような案件で兎沢の娘の執刀医を手術直前に逮捕してしまう。その結果、別の担当医に変わったことで娘は命を落とす。
そのことで兎沢は公安部を恨むようになり、特に志水に対して復讐心を燃やすことになった。この物語は二人の確執が、そのまま刑事部と公安部の大規模な抗争へと発展していく。
元刑事だった人物が公園で殺された。その事件を追いかけるうち、犯人は現職の副総監と関わりを持っていることがわかる。刑事部は犯人を追い詰めるが、公安部は警察のメンツを守るために捜査を妨害する。この双方のやり取りが半端ない。
その攻防は凄まじい。最終的には公安部と刑事部の責任者が左遷される事態にまでなる。結果として相討ちなんだけれど、そこに至る過程はフィクションだとは思えない。警視庁の刑事部と公安部って、マジでこんなに仲が悪いのだろうか? もしかしたら両者の反目は、現実に近いことなのでは? ボクは本気でそう思ってしまった。
警察の専門用語や隠語が飛び交うので、ドキュメントを読んでいる気分になる。もちろん殺人犯は捕まるけれど、そんなもの霞んでしまう。最初から最後まで刑事部と公安部の内部抗争が詳細に語られた作品だった。特にラストシーンに至るまでの双方の駆け引きは秀逸。かなりオススメだよ。
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