クソ野郎だと批判できない
人間の倫理観や常識なんて、冷静で落ち着いたときにしか機能しないと思う。切羽詰まって追い込まれた人間が判断を下す根拠となるのは、自分の大切なものを守ろうとする本能だろう。たとえその行為が犯罪であったとしても。
とんでもないクソ野郎が主人公の映画を観た。客観的な視点で見ると、つい批判的な反応をしてしまう。だけど彼の立場に立ち、かつある行動をするための技術も知識も装備もあるとしたら? ボクだったら主人公と同じ行動に出るかもしれない。だからとてもじゃないけれど、批判的な視点で見ることができなかった。
『レプリカズ』という2019年公開のアメリカ映画。写真のキアヌ・リーブスが主演している。物語としては論理破綻している部分が多い。設定としてありえないことが多すぎる。それゆえSF映画としては失敗かもしれないねwww
ただ人間とは? 自我とは? 意識とは? という視点で見ると、とても興味深い作品になっている。だから詳細なこだわりを手放して見れば、かなり面白い作品だと思う。ハッピーエンドと言っていいのかわからないけれど、ボクとしてはスッキリ感のあるエンディングだった。
キアヌ・リーブス演じるウィリアムは、医療系のバイオ企業で働く神経学者。彼の主導によって、死んだ人間の意識を移植する実験が行われていた。完成間近まで来ているけれど、ロボットに意識を移植しても錯乱状態になってしまう。
そんなある日、休暇中のウィリアムは交通事故を起こす。その惨事によって妻と3人の子供を死なせてしまう。彼が考えたのは4人を再生させること。4人のDNAからクローンを作り、意識を移植して家族のレプリカを作ろうとする。
このあたりのウィリアムは完全なクソ野郎になっている。自分の家族を取り戻すということに取り憑かれていて、周囲に対して最悪な人間になっている。やっていることはすべて犯罪であり、倫理観のかけらもない。
このウィリアムが最高にクソだと思ったのが、クローンを作るポッドが3つしかないとき。つまり家族の一人を諦めなくてはいけない。それをくじ引きで決めようとするけれど、まず最初にくじから外したのは妻。絶対に妻だけは助けたいという、ウィリアムの性根が見える瞬間だった。
結果として実験は成功する。次女のゾーイがくじに外れたことで、他の3人からゾーイの記憶を消して移植する。こういう姑息なところもウィリアムがクソ野郎の証明。だけど最初に書いたとおり、それは家族を取り戻したいと必死になったゆえの結果だと思う。だからボクはクソ野郎だとは思いつつも批判できなかった。
ただ物語が急展開する。彼の勤めていた企業は単なるバイオ企業ではなかった。ここから一気にアクション映画の世界へと入っていく。まだ新しい映画なので結末は書かないでおこう。結果としては、ちょっと歪んだハッピーエンドになる。ツッコミどころは多いけれど、十分に楽しめる作品だと思う。
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