ジレンマへの対処法
ここのところある小説につかまっていて、ようやく昨日の大晦日の夜に離脱できた。時間が前後したり、同じ出来事がちがう視点で複数回登場する。さらに登場人物が多く、その誰もが狂っているという物語。だから読了するのにマジで時間がかかったwww
2020年 #94
『キャッチ=22』下巻 ジョーセフ・ヘラー著。昨日のブログで書いたとおり、今年から観た映画や読了した本に通し番号をつけることにした。この本は昨日の大晦日に読了したので、昨年の分としてカウントしている。
上巻についての感想は「誰も彼もが狂っている』という記事に書いているので参照を。
第二次世界大戦の末期、イタリアのピアノーザ島に駐留している爆撃隊兵士の物語。主人公はヨッサリアンという大尉で、規定の出撃回数をこなしてアメリカに帰国することだけを望んでいる。ところが上官は適当な理由をつけると、次々に出撃回数の上限を変更してくる。
そのためにヨッサリアンは仮病を使ったり、戦争の指令を誤魔化したり、最終的には自分が狂ったと訴える。だけど『キャッチ=22』という謎の不文律の存在によって帰国できない。彼の同僚たちも同じように苦しみ、上官を含めた誰もが狂っているとしか思えない状況だった。
とにかく個性的な人物が次々に登場するので、かなりアクの強い小説だと言える。マイローという料理担当の兵士は、こっそりとシンジケートを作って違法な取引で暴利を貪っていたりする。ある軍医などは生きているのに死んだことにされて、アメリカ本国の妻との連絡を断たれる。
そしてヨッサリアンの仲間たちは次々に戦死していく。被害妄想になった彼は、ついにストライキを始める。下巻では出撃命令を無視して、戦闘機に乗ろうとしない。その動揺は同僚にまで広がり、上官は頭を抱えてしまう。
ちょうど担当する将軍が変わったのをきっかけにして、部隊を率いる大佐はヨッサリアンに取引を持ちかける。アメリカに戻してやる代わりに、自分たち上官が素晴らしいと公言するように強制した。ヨッサリアンを上官に忠実な模範兵としてアメリカに戻すことで、厄介払いのついでに新しい将軍に自分たちの管理能力を認めさせよういうのが目的。
その取引に乗ったヨッサリアンをある事件が襲う。そのことによって病院に運ばれた彼は、大佐たちとの取引を断ることにする。その理由は、戦死したと思われれていたオアという同じテントで暮らしていた仲間が、実は飛行中に脱走してスウェーデンに逃亡していることが分かったから。
大佐と取引すれば、自分を狂わせた『キャッチ=22』から永遠に離れることはできない。そのジレンマから解放されるのは、オアのようにこの状況から脱走するしかないと気づく。そして従軍牧師や仲のいい少佐の力を借りて、逃亡するためにヨッサリアンが戦闘機に向かうところで終わる。
とても難解で複雑な物語だったけれど、ラストの展開は爽快で、とても心地よく読み終えることができた。これは戦争の物語だけれど、現代社会の比喩でもあると思う。どんな世界にも『キャッチ=22』は存在していて、誰もががんじがらめになっている。
そのままやり過ごそうとするなら、狂ったフリをして解放される日を待つしかない。だけどそれは不可能で、死ぬまで『キャッチ=22』は付きまとってくる。そのうち本当に狂ってしまうか、殺されてしまうかしかない。
部隊からの脱出を決意したヨッサリアンは、ようやく『キャチ=22』というジレンマから抜け出せる方法に気づいたのだろう。彼の決意は普遍的で、かつ象徴的なエンディングだったと思う。大変だったけれど、最後まで読む価値のある作品だった。
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