切なすぎる幽霊の視点
昨年の夏から秋にかけて、幽霊が主人公の新作小説を書いた。三人称とはいえ視点の中心はその幽霊。でも物語の流れとして、あまり深刻なものではなかった。
同じく幽霊の視点となった映画を観た。こちらはボクの小説とちがって言いようのない切なさに満ちていて、胸が張り裂けそうだった。
2021年 映画#1
『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』という2017年のアメリカ映画。今年になって1本目の鑑賞作品は、とても異質で心が動かされる内容だった。
主人公に名前がない。幽霊となるCという人物をケイシー・アフレックが演じ、その妻であるMという人物をルーニー・マーラが演じている。
二人ともボクの大好きな俳優で、特にルーニー・マーラはこれからのアメリカ映画界を牽引していく名女優になると確信している。
とにかく変わった作品。まずセリフが圧倒的に少ない。そして特徴は異様なほど静止したカメラワーク。
定点カメラのように俳優たちと少し距離をとって、ワンカットの映像が続く。映画の前半でこのカメラワークの意味がわかる。
夫婦は郊外の一軒家に住んでいた。時おり誰もいない場所に気配がしたり、変な音が発生する。それで妻のMは越したいと夫のCに訴えていた。
ところがCはこの家を愛していて、妻に抵抗する。それでも最終的に引っ越しを決めたとき、夫のCは交通事故で命を落とす。
そして病院のシーンに変わり、Cが幽霊になったことがわかる。その様子はデフォルメされていて、写真のようにシーツをまとった幽霊。もちろん他の人間には見えない。
Cが自宅に戻ると、夫を失った妻のMは失意のなかにいた。ルーニーがワンカットの長回しで大量のパイを貪り食い、その後にトイレ吐くシーンは壮絶。彼女の悲しみと苦しみが無言の演技に現れている。
恋人ができた形跡もあるけれど、Mはその男性と深い仲になることを望まず、その家を離れてしまう。彼女はCの生前にあることを言っていた。住んだ家を去るときは、その家にメモを残しておく、と。
その通りMは柱のすき間にメモを残して去る。てっきり妻を追うと思ったCは、そのまま家に残る。目的は妻が残したメモを読むこと。
ところが何度トライしても、そのメモを読むことができない。ただじっと家を見つめているだけ。そう、つまり固定したカメラワークは、幽霊となったCの視点を表現していた。
やがて新しい住人が来て、幸せな家庭を築く。そんな様子に嫉妬したCはポルダーガイストを起こして新しい住人を追い出してしまう。そして必死になって妻が残したメモを読もうとする。
ここから時間の流れが加速する。その郊外の家があった場所は大都会へと変貌してしまう。絶望したCは時間をさかのぼり、その家が立てられたときまで戻る。
そしてまだ生きているときのCとMの夫婦が入居してきたときに立ち会い、夫婦と同居する。つまりCとMが遭遇した幽霊は、その後に死んだC自身だったということ。
そして同じくCは交通事故に遭い、妻のMは家を離れてしまう。そのときになって、ようやくCは妻が残したメモを読むことに成功する。
その直後、Cは昇天して成仏する。なんというラストだろう!
ただそのメモに『何が』書かれてあったかは明かされない。実際の撮影でもルーニー・マーラが適当に何かを書いたらしく、監督でさえその内容を知らないそう。
つまりメモの内容よりも、それを読んだCの行動に成仏する要因があったということなんだろう。もちろんその伏線はひかれていた。
ただボクの希望としては、メモの内容を明らかにしてほしかった。そこに何が書かれていたのか知りたくて仕方ない。きっとCがこの世の執着から解き離れる内容だったはず。
それにしても不思議な映画だった。でも素晴らしい作品だと思う。2021年のスタートしては、最高の映画に出会えたと思う。
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