予知夢、それとも狂気の前触れ?
夢というのは不思議で、あらゆる情報を得られると思う。大抵は夢を見る人の潜在意識を夢として体験することが多い。だから普段は意識しない自分の一面を夢から知ることができる。
ボクは小説のネタを夢から取ることが多い。だから興味深い夢を見たら、目覚めてすぐにスマートフォンにメモしておく。同じように夢で聞いた音楽を作曲したというミュージシャンは数えきれないほどいる。
そして夢のもたらす情報として、よく取り上げられるのが予知夢というもの。ボクとしては予知夢を否定しない。ただ夢というのは見た人の認知バイアスがかかっているので、正確な情報を受け取るのが難しい。だからリアルな夢を見たからといって予知夢だと宣言すると、精神を病んでいると思われる可能性が高い。
今日観た映画は、まさにそれと同じ窮地に追い込まれた男性が主人公だった。
2021年 映画#12
『テイク・シェルター』という2011年のアメリカ映画。写真のマイケル・シャノンとジェシカ・チャステインが夫婦役で共演している。
主人公のカーティスは地盤の切削作業をしている平凡なサラリーマン。妻のサマンサと、耳に障害のある娘との3人暮らし。ある日、カーティスは悪夢を続けて見るようになる。とてもリアルな夢で、恐ろしさのあまり失禁することもあるほど。
それはとてつもない大きな嵐が街を襲う夢。そして降りつける雨は黄色いオイルのような液体で、それに触れた人や動物は狂ったように人を襲う。夢のなかのカーティスは狂った飼い犬に噛まれたり、街の住民に娘が襲われたりする。そのうえ、妻まで自分に殺意を抱いていた。
夢だと思いつつも、どうしても無視できない。だからカーティスは銀行に金を借りて、家族で数日は過ごせるシェルターを作り始める。同時に疑心暗鬼になったカーティスは、もしかしたら自分が狂ったかもしれない可能性も感じていた。なぜなら母親が統合失調症で入院していたから。自分にも同じことが起きたのではと疑っていた。
最終的には仕事もクビになり、友人や親戚からもそっぽを向かれる。このあたりのマイケル・シャノンの演技は見ているのが辛くなるほどの迫力だった。予知夢を信じる想いと、狂気の世界へ足を踏み入れているのではという。相反する二つの気持ちに翻弄されて苦しんでいる。
結局カーティスは社会から見離されて、完全に孤立してしまう。ところが妻のサマンサは最高に素敵な女性。そんなカーティスを見捨てることなく、心を病んだ彼に寄り添った。さすがジェシカ・チャステインという素晴らしい演技で、必死で愛する夫を守ろうとする彼女の姿に胸が熱くなった。
ラスト近くで精神科医に施設への入院を厳命されたカーティスは、その前に計画していたビーチ旅行へと行く。そして恐ろしいエンディングが。
娘が指差す海の向こう、つまりカーティスたちが暮らしていたあろう街に、複数の竜巻が襲いかかっていた。そして降り出した雨は、カーティスが夢で見たのと同じく黄色い液体だった。それが先ほどの写真のシーン。
ここで映画はエンドロールとなる。つまりカーティスは心を病んでいたのではなく、本当の予知夢を見ていたということ。その後は観ている人が好きに判断してください、という終わり方だった。
全体的に地味で展開の少ない映画。だけどマイケル・シャノンとジェシカ・チャステインの演技力で最後まで引っ張ったという作品で、最初から最後まで張り詰めた空気をビンビンに感じることができた。この映画によって二人が多くの映画賞を受賞したのに納得。ボクが知っているなかで、最高のマイケル・シャノンだった。
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