時間SFは矛盾の宝庫
引き寄せの法則じゃないけれど、ボクは関連事項を無意識に引き寄せてしまう傾向がある。昨日の夕方のブログで、時間SFに関する本の感想を書いた。
そしてその翌日、録画した順番と放映時間でチョイスしただけの映画が、なんと時間SF作品だった!
2021年 映画#16
『デジャブ』という2006年のアメリカ映画。写真のデンゼル・ワシントンが主演していて、『ミッション・インポッシブル・ゴーストプロトコル」で華麗なアクションを見せてくれたポーラ・パットンが共演している。
始めて観たけれど、期待をはるかに超える面白さだった。タイムトラベルできる理論はいい加減だけれど、フィクションにおける時間移動はそんなものwww 難しいことは考えず、とりあえずタイムトラベルできればそれでいい。
物語の始まりはフェリーがテロによって爆破されたこと。女性や子供を含む500人以上の命が奪われた。ATFというアメリカ連邦捜査機関の捜査員であるダグは、この事件における犯人の手がかりを見つける。このダグをデンゼル・ワシントンが演じている。
フェリー爆破の2時間前に、現場近くの川で女性の遺体が発見される。クレアという女性で、テロの被害者に見せかけた殺人と断定された。このクレアをポーラ・パットンが演じている。
フェリーの爆破に使われたのはクレアの車だったことで、クレアが生前に犯人と接触していたことが考えられる。そのことを見つけ出したダグに対して、FBIから捜査チームに入るよう依頼が来る。ある研究チームが衛星を駆使することで、家の中でさえ他人の様子を監視できる装置を開発していた。
映像をコンピュータが合成するのに4日かかる。つまり事件前のクレアの様子を知ることができる。その映像を確認することで、犯人につながる情報をダグに見つけて欲しいということだった。
ダグは生きているときのクレアを見て心を痛める。同時に彼女に一目惚れしてしまう。やがてダグはこの装置に疑念を抱き、捜査官を追求して秘密を聞き出す。これは4日前の映像を再現したものではなく、4日前にタイムトラベルして観察している映像だった。
つまりこのままではクレアが殺されるシーンを全員で目撃することになる。だけど過去の実像を見ることで犯人は逮捕できた。この犯人逮捕の展開は実に面白い。4日前のリアルタイムと現在の時間が繋がり、ダグが4日前の犯人とカーチェイスするシーンはマジで興奮した。
だって左目は4日前の映像を見つつ、右目は現在の道路を見ている。過去と現在がオーバラップするという設定は斬新で最高だった。だけど物語の展開として、犯人逮捕で終わるわけがない。クレアを助け、かつ500人以上の命を救わなければ物語にならない。
その伏線は、ダグが殺されたクレアの自宅に行ったときに敷かれている。始めて入る家なのに、そこに残された血痕はダグのものであり、メッセージボードに「お前なら彼女を助けられる」と記したのもダグ。つまりダグは過去にタイムトラベルすることが映画の前半で示唆されている。
要するに時間SFの典型は決定論だということ。現在においてすでに痕跡を残しているということは、ダグはどれだけ葛藤しても過去へ旅立つということ。つまりその運命は決められていて、自由意志の余地がない。ダグが自分で決めたと思い込んでいるだけ。
結果としてダグはテロを防ぎ、クレアも助ける。だけど敷かれた伏線は、クレアが生きている世界にも殺された世界にも存在している。厳密に言えば、この物語は伏線によって矛盾をさらしている。要するに同じ時間軸で二つの世界が存在していることになる。時間SFはこうした矛盾の宝庫だということ。
それを解消するにはパラレルワールドしかない。未来から過去へ旅立ったダグはクレアを助けて死んでしまう。だけどまだクレアに会っていないダグは生きている。そのダグがクレアに尋問しようとしたとたん、「前に会ったことがあるか?」と尋ねる。クレアは笑顔でうなずく。これがエンディング。
タイトルの「デジャブ』のこの一瞬を象徴したものだろう。映画を観ている人は幸せな二人が印象に残って終わる。だけどクレアが死んでしまった世界も存在している。真実を言えば事件は解決したわけじゃなく、並行世界が現れただけのこと。この事実を無視することができたら、この映画は最高に楽しい作品だと思う。
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