嵐の渦内で真実を伝える勇気
台風が近づいてくる季節になると、いまだに暴風雨のなかに立ってレポートする風景をテレビで見かける。最近はそうした報道を避ける傾向にあるけれど、それでもテレビ局によっては暴風雨に耐えるレポーターの姿を見せられる。
そんな雨風さえ怖いのに、それが銃弾や爆弾だったらシャレにならない。戦争が起きる直前、さらにその直後、戦争の嵐の渦内から事実を伝える記者の勇気を描いた映画を観た。
2021年 映画#27
『海外特派員』(原題:Foreign Correspondent)という1940年のアメリカ映画。アルフレッド・ヒッチコック監督の作品で、この映画の公開1年前の出来事をモチーフにしている。戦意高揚の意図を感じる部分もあるけれど、サスペンス映画としても秀逸な作品だった。
主人公のジョニーはニューヨークの新聞記者。1939年の夏、世界は戦争へと突き進んでいた。その一方で和平交渉も行われている。正確な情報を伝えるよう、ジョニーは社長から命令を受けてロンドンに特派員として向かう。
和平の鍵を握るのはオランダの政治家であるヴァン・メアという老人。ジョニーは平和運動家であるフィッシャーの協力を得てヴァン・メアに近づく。そして戦争が起きるかどうかのインタビューをしようとしたとき、ヴァン。メアは暗殺される。
その瞬間を目の前で見たジョニーは犯人を追いかける。そしてヴァン・メアの暗殺が偽装だったことを見抜く。本物のヴァン・メアは拉致されてイギリスへ連れて行かれた。それは彼が和平条約に影響する重要な条約を知っているから。
ジョニーはフィッシャーの助けを借りて、フィッシャーの娘であるキャロルと協力してヴァン・メアを助けようとする。やがて二人は恋仲になるけれど、恐ろしい事実が明らかになる。なんとヴァン・メアを拉致した黒幕はキャロルの父のフィッシャーで、彼はドイツのスパイだった。
ということで映画の後半はアクション映画のような緊迫した展開になっていく。この時代の作品にしては、かなりハラハラする内容だった。さすがヒッチコックだよね。そしてついにイギリスがドイツに宣戦布告する1939年9月1日を迎えてしまう。
助け出されたヴァン・メアの証言によって、フィッシャーは逮捕されることになった。ところがイギリスからアメリカへ戻る飛行機が、ドイツ軍によって攻撃されてしまう。民間機なのに戦闘機とまちがった誤爆だった。
その旅客機にはキャロルもジョニーも同乗していた。海上に墜落した結果、逮捕を覚悟したフィッシャーは海に飛び込んで死んでしまう。そんな陰謀に巻き込まれたジョニーだけれど、再び戦火の真っ只中であるヨーロッパへ戻り、キャロルとともに戦争の真実を伝えていくというエンディング。
映画の公開が1940年。だからまだドイツが優勢だった時期。それゆえこの映画を作った人たちは、世界的な戦争に対する強い想いがあったと思う。戦意高揚を意図した作品ではあるけれど、同時に反戦に対するメッセージも発せられていたように思う。
この映画が公開された時点で、まだ日本とアメリカは開戦していない。結果として世界は反戦ではなく、より拡大した戦火を引き寄せてしまう。そう思うと複雑な気分になる作品だった。
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