命時間の違いに涙した
猫は人間の4倍で時間が進むといわれている。それは猫の平均寿命を人間の平均寿命と比較することで計算されたものだろう。そういえば、寿命の短い動物は人間より心臓の鼓動が速いというのを聞いたことがある。もしかしたら人間も動物も、生涯で打つことのできる心臓の回数は同じなのかもしれない。
そう考えると切なくなる。たとえばボクと妻が外出して1日家を開けると、自宅で留守番している猫のミューナは、ボクたちの感覚では4日も待っていたのと同じこと。ボクたち人間の1分、1秒は、彼らにとってそれ以上だということ。だからこそ過ぎゆく時間を大切にしたいと思う。
ある小説を読んで、同じことを感じた。いつも笑うことの多いシリーズで、今回も楽しむことができた。だけど全体に流れているテーマは、命時間の差についてだった。だからとても切なくて、何度も涙を流しながら読み終えた。
2021年 読書#28
『ころころろ』畠中恵 著という小説。妖怪が登場する『しゃばけ』シリーズの第8弾で、今回も5つの短編が収録されている。といっても連続テレビ小説のような構成なので、すべての物語が時系列に沿って繋がりを持っている。
『はじめての』
『ほねぬすびと」
『ころころろ』
『けじあり』
『物語のつづき』の5篇が収められている。
最初は少し戸惑った。すでに17歳になっている主人公の一太郎が、いきなり12歳で登場したから。『はじめての』という作品で、生目神という目の神様に関わる出来事を一太郎が解決するという内容。それはネタフリで、その後の4つの物語に関係してくる。
今回の一太郎は急に失明する。生目神に奉納された玉が河童に盗まれた。その玉を偶然発見してしまった一太郎が生目神に疑われ、罰として目の光を奪われてしまう。今回は一太郎が目の光を取り戻すまでの騒動が書かれている。
一太郎は目が見えないので、活躍するのは手代の佐助と仁吉というレギュラー陣。もちろん彼以外の妖怪たちも、笑いを誘いながら一太郎のために働こうとする。今回最初にボクが泣いたのは、『ころころろ』という物語。
ある少女が母親と離れ離れになった。それで母親と会うために生き続けようと思い、本当は死んでいるのに人形に取り憑くことで妖怪となってしまった。しゃべる人形だから見世物小屋で酷使される。それを助けてくれたのは一太郎をの目を戻すために奔走していた仁吉だった。
最終的に仁吉はその少女を黄泉の国に送り出してやる。母親はすでに死んでいるんだから、どれだけこの世にいても会えることはない。『ころころり』というのは三途の川を渡るのに必要は一文銭を転がした音。その音を追って、その少女はあの世へ旅立っていった。
それ以外にも、心残りがあるために悪鬼になってしまった女性の物語もあった。これも切なかったなぁ。そして最後に生目神が登場する。この神様は人間が嫌いだった。なぜならある人間の女性と恋に落ちて暮らしたことがあるから。
ある日、生目神は大元の神様に呼ばれて外出した。ところが戻ってくると妻がいない。必死で探したが、実家の親とともに行方知らずとなっていた。信じていた女性にフラれたことで、この神様は人間不信になっていた。それで一太郎の目を見えなくしてしまったということ。
それを解決したのが一太郎だった。妻がいなくなったのは、生目神を捨てたからじゃなかった。人間と神では時間の過ごし方がちがう。神様はちょっと外出したつもりでも、それは何十年も経っていた。浦島太郎とと同じようなもの。
だから妻は夫の帰りを待ちながら、すでに人生を終えていたという結末だった。そのことを一太郎に教えられた生目神の辛い気持ちに心が痛んだ。同じ時間を過ごしているつもりでも、まったくちがう世界に生きているんだから。
もっと、もっと、ミューナとの時間を大切にしよう。この小説を読んでそう感じた。
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