想像力に限界がない実例
小説を日々書いていると、自分の想像力に限界を感じることがある。ある種の思考ループのようなものに取り込まれてしまって、進むべき方向性を見失ってしまうことがある。
そんなときの助けとなるのはただひとつ。一冊でも多くの小説を読むこと。あるいは映画を観ること。そうしてクリエイターたちの斬新な想像力に触れることによって、自分のなかに何らかのスイッチが入る。限界だと感じていたのは、自分が勝手に境界線を設けていただけだと教えてもらえる。
まさにその代表となる作品を紹介しよう。著者の無限とも思える想像力には感嘆するしかない。
2021年 読書#52
『やなりいなり』畠中恵 著という小説。妖怪たちが活躍する時代小説である『しゃばけ』シリーズの第10弾。何がすごいって、これだけ内容の濃い物語を第10弾まで継続されていることに驚く。
2001年に第1弾が出版されて、なんと今年の2021年にも新刊が出ている。だからこの作品でようやく半分くらい。そして毎回、次々と新しいキャラ、新しい物語が生まれ、同時にレギュラーたちの人物像がより深くなっていく。
今回も短編集となっていて、5つの作品が収録されている。といっても連続ドラマのような構成なので、過去の作品を読んでいるほうが圧倒的に楽しめる。
『こいしくて』
『やなりいなり』
『からかみなり』
『長崎屋のたまご』
『あましょう』
という5つの短編。
廻船問屋兼薬種問屋の若旦那である一太郎が主人公。経験したことのない病気を探すことが大変なほどの病弱。だけど祖母は著名な妖怪であり、一太郎を守っている二人の手代も妖怪。さらに長崎屋には数えきれないほどの妖怪たちが、一太郎を慕って暮らしている。
今回はそんな妖怪たちよりも、神様が事件を起こしていた。日本は八百万の神がいるから、登場人物には事欠かない。橋の守り神である橋姫の恋によって街中に恋心があふれる『こいしくて』や、雷の子供が落ちてくる『からかみなり』という物語まである。
詳細な内容は省くけれど、どの物語も本当によくできている。最後の『あましょう』は親友同志の愛情の深さを描いた物語。一太郎が偶然出会った二人の男性。親友だったのに喧嘩ばかり。やがてその理由がわかって、一太郎も二人の仲直りに協力する。
ところが最後のオチにびっくり。なんとその二人の男性のうち一人は幽霊だった。親友のことが心残りだったその男性は、幽霊となってまで親友のために尽くそうとしていた。想像していなかったオチになって、最後は本気で泣いてしまった。
人間の想像力には限界なんてない。限界があると感じるのは、自分がそう思い込んでいるだけ。そのことを思い出させてもらえた、とても素敵な物語たちだった。
ブログの更新はFacebookページとTwitterで告知しています。フォローしていただけるとうれしいです。
『高羽そら作品リスト』を作りました。出版済みの作品を一覧していただけます。こちらからどうぞ。